2019年11月16日 18時39分
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 異例のヒットとなった映画『新聞記者』の原案者で、東京新聞社会部・望月衣塑子記者の仕事ぶりを追ったドキュメンタリー映画『i−新聞記者ドキュメント−』(公開中)の公開記念舞台あいさつが、16日、新宿ピカデリーで行われ、望月記者とメガホンを取った森達也監督が登壇。望月記者は、上映後の観客に「本作を観たら『安倍政権はトンデモナイ』と8割の人が感じてくれるのでは。一方で、普段の私を見て、こんな望月に2年以上付きまとわれている菅さん(内閣官房長官)もかわいそうだという人も、半分ぐらい出るかも、との懸念もあります」と率直な感想を述べ、笑顔で公開を喜んだ。

 本作は、オウム真理教を題材にした『「A」』や続編『A2』、ゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守の素顔に迫った『FAKE』などで知られる森達也監督が、望月記者に密着したドキュメンタリー。沖縄の辺野古移設問題や森友学園問題など、近年話題となった事案を取材する望月記者の姿を通して、日本の報道の問題点、日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体に迫っていく。

 普段の取材する側から、取材される側になった望月記者は、その感想を聞かれると「気を許して犬食いしてるところとか、方向音痴で道に迷ってるシーンなど、恥ずかしいからやめてほしい映像がテンコ盛りです」と苦笑。だが「私の日々の戦いの場は(官邸定例)会見なので、文字には書けない会見場の空気ですとか、私に対して質問妨害が実際どんなふうに行われているのか、ドキュメント映像として描き出されている。結果として、私は記者として、取材して書くということの大切さを、改めて自分に突きつけられました」と自身の役割について意を新たにしたと、エネルギッシュに振り返った。

 密着した森監督は、そんな望月記者について「記者としてバランスが取れているとは言いがたいのに、彼女が注目されるのは、当たり前のことをやっているから」と表現。「逆に、大手メディアの組織ジャーナリストは、当たり前のことをやれていないんでしょう」と続けた。「売り上げや視聴率、上司の命令やリスクは、組織の論理として避けられないでしょう。でも、記者が現場で見たこと感じたこと、自分の五感を使い、怒ったり悲しんだりという一人称のあり方が、ジャーナリストには一番必要なこと。そういう現場性がなくなって、ジャーナリズムが機能しなくなっている」と話す。本作タイトルに小文字のi(アイ)が用いられたゆえんでもある。

 本作は、今秋の第32回東京国際映画祭で、日本映画スプラッシュ部門作品賞を獲得。森監督は「プログラム・ディレクターの矢田部(吉彦)さんが、編集段階の本作を観に来て『これ、絶対やります(上映します)』と言うのでビックリした。賞をもらっても、何のトラブルもないし、忖度しなければ、どうってことないんです。自分で勝手に萎縮して、自己規制して、これ以上はできないとなっている」と表現と忖度の問題についても言及した。

 イベントでは最後に、現在問題となっている「桜を見る会」についての話題も。望月記者は「田村智子議員の参院内閣委員会での追及がたいへん面白くて、ネット上ですごく盛り上がった。でも直後のテレビや新聞ではそれほど記事にならなかったんです。ところが今週月曜の会見で、菅さんが慎重な物言いをした。政権側は、ネットにあふれる人々の声が、少し遅れて大手メディアに取り上げられると、非常な関心でウォッチしてますね」とジャーナリストとして環境の変化に敏感に反応していた。(取材/岸田智)