事件が発覚する度に反省を口にし、それでも覚せい剤に手を出してしまう田代容疑者。
今回の事件を受けて、世間でも「懲りない」「反省がない」「なぜやめられない」「意志が弱いからだ」などと批判する声が上がる。

しかし、覚せい剤の使用を断ち切ることは並大抵のことではないらしい。

まず「覚せい剤」とは何かを解説しておきたい。
覚せい剤はアンフェタミン類の精神刺激薬(中枢神経の活動を増加させる薬物。刺激薬、興奮薬とも呼ばれる)を指す。
脳神経系に作用して心身の働きを一時的に活性化させる(ドーパミン作動性に作用)。覚せい剤精神病と呼ばれる乱用・依存を誘発する中毒症状を起こすことがある。

闇の世界では「一度やったら、骨の髄までしゃぶられる」ということで「シャブ」と呼ばれる。

国内では第2次世界大戦後に、「ヒロポン」の名前で注射の乱用が問題となり、1951年(昭和26年)覚せい剤取締法が公布された。

かつて筆者が担当していた地方の警察本部銃器薬物対策課で薬物担当の課長補佐をしていた警部や、
闇社会についていろいろ教えてもらった暴力団の元組長から聞いたことがある。

まず警部は「薬物依存者に必要なのは懲役ではなく、治療だと思う」と話していた。
気合や根性で何とかなるような生易しいものではなく、脳が支配され抜けられないのだそうだ。

刑法で禁止されているし、摘発が仕事だから取り締まっていたが「ほぼ被害者という容疑者もいた。懲役はあまり意味がない」と感じていたそうだ。
というのは、自発的に使用するのではなく、使わされる「女性」が多かったというのだ。

元組長は「あちこちを飲み歩き、目を付けた女性に『栄養剤』などと言って使わせる。
一度使うと抜けられない。常連の『お客さん』は女性が多かった」と語っていた。

元組長は話術巧みで「若いころ、さぞかしモテただろうな」という感じの風貌だった。
一緒に飲みに行くこともあったが、1軒に約30分しかいない。「昔の習慣だな。飲むのが目的じゃなく、お客さんを物色するのが目的だから」

酒は飲まず、もっぱら事前に頼んでいた出前の寿司(すし)を頬張っていた。
自身も覚せい剤を使ってC型肝炎に罹患(りかん)していたため、酒を飲めなくなっていた。

還暦を待たずして亡くなったが、見舞いに行った時、やせ細った元組長が「好奇心とか、試しにとかで、絶対にやるな。あれは麻薬じゃない。『魔薬』だ」と話していた。


今年7月、NHKのEテレの情報バラエティー番組「バリバラ」に2回出演し、薬物依存症の恐ろしさを訴えた田代容疑者。
容疑の段階で一部否認しているため、事実関係は分からない。しかし、覚せい剤の恐ろしさを、こうした形で世間に訴えるのは、皮肉としか言いようがない。
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