成長、世界との距離、そして希望
一斉に助走を始めるアタッカーの後ろから、後衛の選手が突如、現れてスパイクを打つ。翻弄された相手ブロッカーが慌てて手を伸ばすものの、強く放たれたボールは鋭い音を立ててコートに突き刺さる。躍動感あふれる男子バレーボールチームのプレーの連続に、装飾語は必要ない。強豪国を相手に、果敢に立ち向かう彼らの姿を見た誰もが、彼らの成長や、世界との距離、明るい未来を予感したはずだ。

ワールドカップ2019男子大会が閉幕した。全日本男子はワールドカップ史上最多の8勝を挙げ(3敗)で実に28年ぶりとなる4位に入賞。直前まで行われていたヨーロッパ選手権などの影響もあり、主力が揃わないチームもあったものの、戦力を落としてきた相手から星を取りこぼすことなく着々と勝利数を積み重ねた。何より、その戦いぶりは試合を追うごとに注目を集め、近年ナンバーワンとも言える「勢い」を見せた。

一体、何が変わったのか。

世界のスタンダードであるビッグサーブを推奨

石川祐希(イタリア・パドヴァ)、西田有志(ジェイテクトSTINGS)などのポテンシャルの高さは以前より定評があった。
石川、柳田将洋(ドイツ・United Volleys)など海外のプロリーグでプレーし、世界のスタンダードを実践している選手の存在も大きい。
中でもビッグサーブと呼ばれる強いサーブで相手を攻め続ける戦略は、いまや世界標準となっており西田、柳田のサーブで連続ポイントを挙げるシーンは
見ていた人にも強烈なインパクトを残したことだろう。
そしてスパイクでは、ファーストテンポと呼ばれるセットアップの動作より先に助走を始めるはやい攻撃を石川、

西田ら多くの選手が実現できていたこと。
セッターとリベロを除くアタッカー全員が一斉に助走する「シンクロ攻撃」を徹底したことも、得点力を上げることができた要因だ。
そもそもシンクロ攻撃はブラジル代表をはじめとする強豪国ではスタンダードな戦術。
石川、西田らがファーストテンポのはやい攻撃を同時に仕掛けることで、相手のディフェンスをかく乱し、スパイク決定力がアップする結果となった。

加えてセッターの力も大きい。

リオデジャネイロ・オリンピックの世界最終予選では終盤、同じ選手にトスが集まり、その選手がつかまって試合を落としたシーンが多かった。
しかし今大会でトスを上げた関田誠大(堺ブレイザーズ)も藤井直伸(東レアローズ)も、ミドルブロッカーの攻撃を中心としてトスを組み立てるのが得意なタイプのセッターである。
加えて今大会で起用された高橋健太郎(東レアローズ)、小野寺大志(JTサンダーズ広島)の両ミドルブロッカーは、これまで日本に多かった、
短い助走でコンパクトにスイングするタイプとは違い、しっかりと助走距離を取り、
強打でブロックやレシーバーをはじき飛ばせるアタッカーである。
そんな両選手をラリー中や、マッチポイントなどの局面で使えるセッターの存在が8勝を手にできた要因でもある。

10/16(水) 12:00 Yahoo!ニュース 個人
https://news.yahoo.co.jp/byline/ichikawashinobu/20191016-00147031/