気鋭の若者だった。
誰もが嬉し涙を流す四段登第を果たしたときは「まだ三段リーグで地獄を見てる同期に申し訳ない」と昇段の喜びを語らなかった。
12年前、30半ばでB1組に到達した。
一握りの棋士しか届かない。
A級まであと一歩のもののふだけが集う「鬼の棲家」だ。
そこで堀口は地獄をみた。
これまでの人生で培ってきたもの。
ここまで勝ち続けてきた棋理の全て。
B1の鬼たちに散々にいたぶられ負けた。
堀口の行動に異変が起こり、勝率が5割を切り始めたのはその翌年からだ。