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「死ぬのだろうな」
14歳、中学3年生のとき、小説を読みながら帰宅していた三浦さんは、後ろから
寄ってきたバンに乗っていた男たちに声をかけられた。

《あとはあまり覚えていない。覚えているのは痛みと、死ぬのだろうな、という
非常にリアルな感覚だけだ。私の頸に手をかけたそのうちの一人ののっぺりとした
眼つきが醜くて気持ち悪く、せめてもっと楽な死に方をさせてもらいたかった。
少なくとも一人は知っている顔だったと思う。

殺風景な新幹線の高架下で、ほらよ、と放り出されて、私はバッグとスカーフを
胸に抱えて家までよろよろと歩いた。自分がどんなにぼろぼろでも、いつも通りの
田舎の風景は微塵も私の心に寄り添ってはくれなかった。

きちんと閉まった正面の門を避けて庭の戸口から入り、母が茅ヶ崎の庭から持ってきて
植えたあんずの木の下で、隠れるように外水栓の水で顔と手を洗った。制服を脱ぎ捨てたのち、
手負いの狼のように私は炬燵の中で唸った。下腹部の痛みが尋常ではなかった。
手でさわると血がついた。

(「初めての経験」より抜粋)》

そのときは母親には言わなかった。警察に通報しなかった。産婦人科にも行かなかった。

その後、付き合った男性には言ったり言わなかったりしたけれど、この体験をもって、
自ら性暴力被害の当事者だと表明したこともなかった。

性犯罪をめぐって意見表明したツイートが炎上し、謝罪したときでさえも。

なぜ今回、自らの体験を書いたのか。