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■「若尾(文子)さんとダブるんですよ、僕」

 と、少年のように照れていたものです。ちなみに、若尾さんは大河ドラマ「武田信玄」(1988年)でナレーションを担当したことがあります。各回ラストの決めぜりふ「今宵はここまでに致しとうござりまする」は、当時の流行語大賞を受賞しました。いわば、艶っぽい声を持つ女優の遺伝子が、時代を超えて受け継がれているわけです。

 そんな「すずボイス」の原点ともいうべき作品が、日本テレビ系連続ドラマ「学校のカイダン」(2015年)です。彼女の連ドラ初主演作品で、底辺女子高生が天才スピーチライターに助けられながら、「言葉の力」で学校と自分自身を変えていくという「スピーチドラマ」でした。演説シーンでの切なくも迫力あふれる声の強さが、今も印象に残っています。

「なつぞら」では、夕見子役の福地桃子さんの声も人気です。こちらは、柔らかさのある正統的な美声で、ヒロイン・なつとのやり取りはハーモニーのようです。物語の進行上、出番から遠ざかっていますが、また2人のやり取りを聞きたいものです。

 というわけで「耳で楽しむドラマ」でもある「なつぞら」。今のところ、個人的に一番心に響いたのは、41話(5月17日放送)の「天陽くーん」のリフレインです。上京を祖父に認めてもらえたうれしさがあふれ、その直前に映った空の青さと雪の白さとに吸い込まれそうな気分になりました。

 これからも、さまざまな「すずボイス」が聞けることでしょう。中盤に差しかかっても「なつぞら」はますます視界良好です。

作家・芸能評論家 宝泉薫