ネイルと仲間ならネイルをとった女・NGT加藤美南。と言うのはさすがに酷か。山口真帆の卒業公演を映す画面に、「せっかくネイルしてるのにチャンネル変えてほしい」とコメント、物議を醸して研究生に降格させられた。友達限定のつもりで公開したはずが、全世界に視聴可能な形で配信したミスが仇となった。

 が、今度は元AKBの奥真奈美が「加藤なんて知らなかった。売名行為なのかな」と場外からディスって記事になる。こりゃ女子アイドルのマウンティング合戦は終わらないだろう。奥は日テレ系の「女が女に怒る夜」でも、当時の同輩を「シジミみたいな目の女」とバカにして話題になっていた。現役時代に整形疑惑をかけられたことに対する意趣返しらしい。整形といえば、後輩を「整形モンスター」とけなした元AKB渡辺麻友の裏アカ疑惑もあった。なんだかAKBって整形かどうかで悪口言ってばっかりのグループみたいだ。高須院長に助言でももらったらいいのに。YESと二つ返事で来てくれるだろう。

 今やアイドルとフリー女子アナは飽和時代。コスプレイヤーやYouTuberなども含めれば、「明るくてかわいくて男ウケする女の子」キャラはもう定員いっぱいだ。映画・CMの主演や雑誌の表紙、番組 MCになれるメンバーは固定化されている。そりゃ、一人でも蹴落としたいという気持ちになりやすいのだろう。

 そこで今ひとつパッとしないアイドルが、手っ取り早く目立とうとやりがちなのが「炎上」だ。かつての指原莉乃の例は言うに及ばず、捨て身の作戦が一発逆転を起こすこともある。NGTの中井りかも失速したとはいえ、ふてぶてしいキャラで話題を博したクチだ。ネットやSNSの声も、追い風になることが増えた。特に顔の良い若い女性が毒舌を吐くと、「かわい子ぶってなくて好感が持てる」と、ポジティブに評価されることもある。加減が必要だが、若さと美貌があるうちはギリギリ許される飛び道具。あと一歩のところにいるアイドルたちはそう思っているのかもしれない。

 テレビ局にとっても、そうやって矢面に立ってくれる人間は大歓迎だろう。何かとクレーマー騒ぎや人権問題に発展しがちな昨今、うかつに過激な番組は作れなくなっている。話題になりたいアイドルと、視聴率を獲りたいテレビ局の利害関係は一致する。だからアイドルの炎上商法は後を絶たない。

■炎上アイドルたちの承認欲求が作り出すタチの悪いマッチポンプ

 元AKB西野未姫もそうした時勢を見てか、炎上キャラの道を選んだ一人だ。AKB出身タレントとしては初の「しくじり先生」に出演。「ゲロ吐くほど嫌いだった握手会」などのキャッチーなワードを駆使し、ぶっちゃけキャラへ。味をしめたのか別のバラエティ出演時、頑張る共演者をディスるなど、投げやりな言動を見せて批判が殺到。でも本人は、「悪役キャラがいないと番組が盛り上がらない。全力で嫌ってくれ」、と煽っている。

 そう、キャラなのだろう。番組には台本があると、今やみんな知っている。不愉快な言動をするアイドルたちも、番組や事務所の指示でいやいや演じているのかもしれない。肥大した承認欲求は、悪役にならないと満たされないほどなのかもしれない。でももし本当にそうなら、今やアイドルに必要なのは、可愛さよりも鈍感さだ。キャラや芸とはいえ、人を平気でけなせる鈍感さ。若気の至りで炎上しちゃいましたと舌を出せる鈍感さ。そういう仲間や他のアイドルを見ても、正気でいられる鈍感さ。

 しかし何より、私たちも彼女たちが図に乗っていることに、いちいち反応しない鈍感さが問われているのかもしれない。女が女を叩くことが売れるための手段になり、その様子に手を叩いて喜ぶメディアや視聴者がいる以上、アイドルたちの炎上とマウンティングは終わらない。目には目を、鈍感には鈍感を。

 炎上で売れた仲間への憎しみや、叩かれる側にいつ回るともしれない恐怖や不安が募ることも当然あるだろう。その時、裏アカウントで憂さ晴らししてやれ、という思考回路に繋がってもおかしくない。奥や中井、西野の所業は、回り回って加藤みたいな人間を生み出す。タチの悪いマッチポンプ。そして最悪の場合、山口が巻き込まれたような事件が起きてしまう。

 承認欲求に飲まれない。それもある種の鈍感さと言うのかもしれない。しかしそれこそが、本当のアイドルのみが持ちうる健全さなのだろう。自浄作用を求めるのはまだまだ難しいかもしれないが、アイドルを取り巻く世界が健全になることを祈る。あとは加藤がネイルしながら、今回の一件は「有吉反省会」とかで今後ネタになるなー、などと思ってたりしないことを願うばかりである。

(冨士海ネコ)

2019年6月3日 掲載

6/3(月) 7:00配信 デイリー新潮
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190603-00563632-shincho-ent