今回は中国のIT産業と日本のジャパンディスプレイ(以下、JDI)の話なのだが、
出だしはガンダムから始めさせていただく。

いわゆる「ファーストガンダム」では、地球連邦軍のアムロ・レイとジオン軍の
シャア・アズナブルという2人の登場人物の成長と戦いが、物語のメインになっている。
主人公である連邦のアムロが搭乗・出撃する「モビルスーツ」(架空の戦闘ロボット)としては、
ガンダム1機のみが物語を通して登場している。

もう一方のジオン軍のシャアは、ザク、ズゴック、ゲルググといった新型モビルスーツに搭乗し、
アムロと対峙する。次々と新しい機体を開発する技術力を誇示しつつも、
上層部の内紛などにより結果的には戦略レベルで連邦に負けてしまうジオン軍は、
まるで日本の製造業のようでもある。

ファーストガンダムの終盤、劇場版3部作でいえば『めぐりあい宇宙』編では、
シャアが最後に搭乗するジオングというモビルスーツが出てくる。
シャアは初めてジオングを見たときに、脚がなく80%の完成度だと聞いて、整備士に不安を吐露する。

それを受けて整備士は、「あんなの(脚)飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」と、

脚がないモビルスーツでも性能は100%引き出せると自信を示す。名シーンである。
このジオングの脚にこだわる「偉い人」は、日本の経営者ともダブるように筆者には見える。

話は再びガンダムの世界観に戻るが、冒頭で述べた、ジオングに脚をつけたがる日本企業は、
100%の使い勝手、デザイン、セキュリティを求めすぎて、
かえってビジネスモデルとしてのバランスを崩していないだろうか。

ファーストガンダムの前半では、戦闘の主力兵器は人型ロボットであるモビルスーツであった。
しかし中盤以降になると、人型の形態にこだわらない「モビルアーマー」という兵器が登場する。

宇宙戦争の主力が人型のモビルスーツによるものという思い込みのある既存の軍幹部にとっては、
人型という形態は過去の成功体験であり、思い込みであり、惰性でもある。
新しいタイプの機器に対する理解が追いつかない、非連続なイノベーションが起きていたと考えられる。

翻って、冒頭の若い整備士はモビルアーマーという新兵器をよく理解し、人型であることにこだわらない。
だから「モビルスーツか、モビルアーマーか」という形態の違いにこだわらない、
若く新しい発想ができていたのだろう。ちなみに、コアなガンダムマニアの間でも、
ジオングはモビルスーツなのかモビルアーマーなのかで議論が分かれる。余談であるが――。

それを考えると、国際競争で劣勢になって久しいといわれる日本企業も、
存の技術開発の経験や技術力だけで市場を切り開いてきた過去の経験が、
ジオングに脚をつけたがらせているのではないだろうか。新技術は常に正しいもの。
技術は価値を産み出すもの。機能や性能はないよりもあったほうがいいもの――。
そういう思い込みが、日本の技術開発にコストやビジネスプラン抜きの
「技術優先シナリオ」をもたらしているように思える。

一部抜粋
https://diamond.jp/articles/-/203027
https://diamond.jp/articles/-/203027?page=4