河野は「井上君は全部が理想的なんですよね」と羨ましそうに言った。

「今までたくさんの世界王者とやってきたけど、スピードは一番。パンチも一番。
パワー、ディフェンス、フットワーク、リズムもいい。全部がバーンと抜けている。
普通はパンチが上手い人はディフェンスが悪かったり、どこか欠けている部分がある。
みんな井上君みたいな動きをしたい。僕だってそうしたい。でも、できないから
今のスタイルになっている。だからボクサーの理想なんですよ」

ボクサーは誰もが最初は井上のようなスタイルを目指す。ところが、短所に気づき、
長所で補う。もしくは長所をさらに伸ばして武器とする。そうやって独自のスタイルを
築いていく。しかし、河野いわく、井上は全てが長所だという。