「ブレないスポーツ報道」の著者 新聞TVの自主規制に疑問

 昨年から次々に起きているスポーツ界の不祥事により、旧態依然とした競技団体や指導者のあり方が問われている。
一方で、報道する側の「自主規制」に疑問を抱いているのが、「ブレないスポーツ報道 ネット時代のジャーナリズムを問う!」(言視舎)の著者である津田俊樹氏(スポーツライター)だ。

――新聞記者時代、プロ野球の取材からスタートしたそうですね。

「我々の時代のプロ野球担当はサツ回り(警察担当)と同じでした。そこで取材の基本をたたき込まれ、一人前になってから他のスポーツを担当しました。
気骨のある先輩記者の背中を追いながら、朝駆け、夜回りを重ねました。空振り三振の連続でしたが、
スポーツ紙に限らず一般紙も、的確な分析や批判的な記事が多く、いつか自分も、と駆け回りました。
最近は“不都合な真実”を暴こうとする記者が少なくなり、大相撲、競馬などはユルい報道ばかり。テレビもスポンサーと視聴率を気にして本質に迫ろうとしていません」

――プロ野球は批判記事を書くとすぐに「出禁」(取材禁止)にする球団があって、チームを褒める記事しか認めないと言っているようなものです。

「記者側にも責任があります。選手や球団幹部とメールやLINEなどでつながり、自分は特別と、カン違いしている者がいます。
本に書きましたが、取材対象との距離感をどうとるかが重要で、最も難しい。その点について自らに問いかけ、悩んでいる記者がどれくらいいますかね。
40年以上記者稼業を続けていますが、いまだに答えを見つけられません」

――日大アメフト部の悪質タックル問題から、もうすぐ1年です。政治家とスポーツ庁の働きかけで大学スポーツ協会(UNIVAS=通称ユニバス)が発足しましたが、有力大学にソッポを向かれてしまいました。

「ユニバスの設立目的は卓越した人材育成、大学ブランドの強化と競技力向上です。文武両道の理想はすばらしいですが、
出席やテストの点数が足りなければ試合に出場できなくなる。スポーツ推薦で入学した学生のケアなどの課題があります。
理想と現実のはざまの中、アメフト学生日本一の関学大や昨季ラグビー部主将が医学部生だった慶応、既に改革に乗り出している筑波大などは参加を見送りました。
国から言われなくても、自分たちの考えで文武両道を成し遂げようという気概があるからでしょう。
また、大学スポーツでオイシイ思いをしようという企業がありましたが、早くもビジネスにならないと腰を引き気味です。
ユニバスに関しても詳しい報道がないためか、世間の関心は高くないですね」

――2020年東京五輪に関する報道もそうです。冷静な目で報道すべき新聞社が東京五輪のスポンサーになっています。

「耳が痛いです。五輪招致をめぐる贈賄に関与した疑いでフランスの司法当局から捜査を受けているJOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長が退任を表明しました。
IOC(国際オリンピック委員会)委員も辞任しましたが、これで、贈賄疑惑追及を幕引きにしたら、マスコミは竹田氏以上にバッシングを受けるでしょう。まさに踏ん張りどころです」

――疑惑追及はマスコミが盛り上げている東京五輪に水を差すと思いますか?

「そう勘繰られても仕方ありません。新聞、テレビ離れに歯止めがかからないのは“自主規制”が原因のひとつかも。
メダル至上主義でいいのか、五輪ムーブメントとは何かを考えるうえで、JOCが当時の政治権力に屈した1980年モスクワ大会ボイコットの検証が不可欠です。
五輪開幕まで1年余となった今こそ、ブレないスポーツ報道が求められているのではないでしょうか」

 (聞き手=塙雄一/日刊ゲンダイ)

日刊ゲンダイDIGITAL 2019/04/22 06:00
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画像:疑惑のJOC竹田会長は退任したら「終わり」か
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