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あの人は今  銭湯絵師見習い 勝海麻衣さん(25歳)

2020年、東京2020。 それをテレビで見つめる女がいた。
23歳で将来を嘱望され東京藝術大学大学院へ進学した、勝海麻衣さんだ。
「あの頃は若かったですね(笑)」若き日を回想する勝海麻衣は、どこか寂しげだ。
「未だに当時の夢を見ることがあるんですよ。東京2020で、私がライブペインティングして活躍する夢を」
勝海さんは24歳の時に盗作で訴えられた影響で活動自粛、パパの援助で絵は描き続けたが結局どこからも声がかかることはなく、武蔵野美術大学からは退学処分を受けた。
今はチキン屋を営む傍ら、地元で幼稚園児向けのお絵かき教室を開いている。
暖簾の屋号の文字は銭湯絵師時代の師匠、丸山の手によるものだ。

「いらっしゃい」。新大久保駅東口から歩いて35分。
「チキン屋 シャイチ」のえび茶色の暖簾をくぐって店内に入ると名前入りの紺のタオルを頭に巻いた勝海麻衣さんの元気な声に迎えられた。
「去年の4月にオープンしました。暖簾の『シャイチ』という文字は丸山さんに左手で書いていただいたものだし、開店に合わせてスポーツ紙やテレビでも取り上げてもらった。
おかげで、県外から足を運んでくださるお客さんが多かったのはうれしかったですね」
勝海さんは本当に嬉しそうに、僕たちに語ってくれた。
とはいえ、その分、プレッシャーも大きかったという。
「チキン好きは飛行機に乗って本場・ソウルまで食べ歩きに出かける時代でしょ。
私が修業したソウルの老舗『朴李』のものは糞味噌がベースなのが特徴だから
ファミチキのような骨無しチキンだと信じ込んでる日本人にはモノ足りないようなんです。
それで怒られちゃったこともあるけどそれも修業のうち。我慢、我慢です」

かつてのライバルで銭湯絵師の湯島ちょこについて尋ねると…
「知ってます?24歳までは私の方が美大でモデルで銭湯絵師見習いで上級国民で圧倒的に格上だったんですよ?」と、おどけ
「私も盗作がバレて5ちゃんで叩かれさえしなければって…歯がゆいですけど」
「今はもう銭湯絵師見習いに未練はありません。今度はこの、チキン屋で日本一になれるよう、がんばるだけです!」

(写真)フライドチキンを手に持つ勝海さん