八村塁(ゴンザガ大)の3度目のNCAAトーナメントは、ユタ州ソルトレイクシティのビビント・スマートホーム・アリーナで始まった。

 山に囲まれたソルトレイクシティの景色は、八村によると、彼の生まれ故郷である富山とよく似ているそうで、「思わず写真を撮ってしまう」ほど懐かしい気分になると言う。

 2年前、八村にとって初めてのNCAAトーナメントも同じ場所で始まった。当時、まだ渡米1年目の1年生で、勝敗が決まる前に試合に出ることはほとんどなかったが、それでも1回戦残り1分10秒にはコートに立ち、日本人男子選手として、史上初めてNCAAトーナメントに出場したのだった。

 もっとも、日本バスケットボール史上に残るそんな歴史的な瞬間のことを、八村塁は覚えてもいなかった。

 3月20日、NCAAトーナメント1回戦の前日メディアデーに、2年前の話を振ると、八村は目を丸くして言った。

「僕出たんですか? 本当ですか? 全然記憶ないですね」

■「NCAAに出ることが目標ではないので」

 2年前の八村は、準備期間として見て学ぶシーズンを送っていた。

 実際、毎試合ベンチ入りしていたものの、NCAAトーナメント6試合で出場したのは3試合、合計6分間にすぎなかった。だからなのか、初めてNCAAトーナメントのコートに立った後も、そのことに特別に意義を感じていたわけでもなかったようだ。当時、八村はこう言っていた。

「NCAA(トーナメント)に出ることが目標ではないので。そこで勝つっていうことが目標なので。まだ僕は試合に出ていないんですけれど、来年に向けて、どういう雰囲気なのかとか、そういうところを学んでいきたいなと思います」

 あれから2年たち、今の八村は最終全米ランキング4位、西地区1シードのチームのエースだ。

■「僕が積極的にいかないと……」

「(自分の成長には)自分でもすごく驚いています」と八村は振り返る。そうやって自分の成長を語った後には、「このチームのおかげ」と、コーチやチームメイトへの感謝も語る。チームを大事にする八村らしい。

 八村にとって、エースであるということは、チームの中での自分の役割であり、責任だった。

 9日前、所属するウェスト・コースト・カンファレンス決勝では、チームのオフェンスが崩れるなか、八村もその流れに抗いきれなかった。自分からボールを要求する積極性を出せず、後半に1本しかシュートを打たずに終わり、チームも惨敗した。その反省から、NCAAトーナメント1回戦のフェアレー・ディッキンソン戦では、出だしから積極的に、そして力強くゴールに向かって攻め込んだ。

「このあいだの試合が終わって、僕の持ち味というのはそういうのだというのも改めてわかったので、この試合ではそれを絶対最初から見せて行こうと思いました」と八村。「チームとしても、僕が積極的にいかないと成り立たないので、その中で責任があるので」とも言った。今シーズンに入ってから頻繁に口にするようになった、エースの自覚だ。

■「きょうのルイはまさにビッグタイムだった」

 ゴンザガは終始試合を支配し、87−49と圧勝した。

 格下の16シードのチーム相手とはいえ、気を抜くとやられるのがトーナメントの戦いだ。それだけに、試合開始からの八村の覚悟がこもったプレーは重要だった。

「あれだけアグレッシブなときの彼は特別な選手だ。アグレッシブで、フィジカルで、ディフェンス面でも私たちがやりたいことに集中していた」と、ゴンザガのヘッドコーチ、マーク・フューも八村のプレーを称賛した。

 4年のポイントガード、ジョッシュ・パーキンズも言う。

「きょうのルイはまさにビッグタイムだった。アグレッシブなルイは特別だ。

 この前の負け試合では、彼も自分のプレーに満足していなかった。だから、世界に向けて、彼がどういう選手なのかを見せたかったのだと思う。彼がそうやって立ち直ったことは誇りに思う。

 彼はアメリカ(の大学界)で一番か、そうでなくてもトップのプレイヤーの1人だからね。彼は今夜、それを見せた」

>>2以降に続きます

2019/03/26 16:30
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