3/5(火) 10:30配信
 自転車ロードレースで3大会連続で五輪に出場した順大大学院の沖美穂さん(44)が、自転車界の「股ズレ」の深刻な実態を修士論文にまとめた。選手たちの重い悩みでありながら、デリケートな課題ゆえに避けられがちだったテーマにメスを入れた。「選手が相談できる環境を整えるためにも、まずは実態を知ってほしい」と訴える。【田原和宏】

 「股ズレ」は股の内側などに生じる皮膚や粘膜の異常や障害で、レーサーパンツと呼ばれる専用ウエアや自転車のサドルとの摩擦などで起きる。腫れて痛みが出たり、ひどい時には陰部がただれたりする。選手が相談をためらうこともあり医師にもあまり知られておらず、国内では本格的な研究もされてこなかった。

 沖さんは北海道出身で、スピードスケートから、22歳で自転車に転向した。まず悩まされたのが股ズレだった。婦人科を受診したこともあったが、「男性医師から『こんなの見たことがない』と驚かれ、ショックを受けた」と振り返る。

 3大会連続となった北京五輪に出場した2008年限りで現役引退し、13年4月に日本競輪学校の初の女性教官に就任した。指導者は男性ばかりで、誰にも相談できない女子選手の状況は自らの現役時代と変わらなかった。予防クリームの使用を勧めたり、生理用品メーカーの担当者を招いて研修を開いたりしたが、抜本的な解決には至らなかった。「何とかしたい」との思いから17年4月、学問の世界に飛び込んだ。

 論文をまとめる際、ガールズケイリンの選手100人を対象にアンケートを実施した。8割が「股ズレ」の悩みを抱えており、うち49人が再発を重ねるなど深刻な実態が浮かび上がった。治療の相談をしたことがあるのは6割程度で、相談相手は選手仲間が半数近くで、医者は約1割にとどまった。

 情報不足を背景に、4割の選手は薬を塗ったり、こまめにシャワーを浴びたりするなどの必要な対策をしていないことも明らかになった。別のアンケートでは6割以上の女子選手が男性指導者の理解不足を打ち明けた。

 論文は男性指導者への講習や選手教育、医療機関との連携、障害を軽減するサドルの開発など幅広い対策が必要と結論付けた。

 調査結果は競輪を統括するJKAや日本自転車連盟などに提出する。今春、大学院を修了し、ロードレースの日本代表の強化に携わる。研究室で得た成果を現場で選手の支援に生かしていく。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190305-00000025-mai-spo