持ち時間が、寄席は15分あるのに対し、M−1は4分しかない。中距離層と100メートル走くらい違いがあるんです。

1500メートルを専門にしている選手が、大会の前だけ100メートルの練習をするよりも、常に100メートルの練習をしているやつの方が強い。

ただ、単に早くしゃべるだけなら、それは練習すればできるという話なので、そこにあんまりとらわれ過ぎない方がいいと思うんですけど。

芸人にとって一番よくないのは、コンテストのことを意識し過ぎて、自分の持ち味を見失ってしまうことですから。コンテストはモチベーションの一つにはなりますが、そのためにやっているわけではない。
僕は何組もの若手に「M−1は優勝を目指さないほうがいいよ」ってアドバイスをしたんです。心からそう思えるようになったとき、初めて自分らしさが出ますから。

漫才はドラクエに似ているところがあって、やればやるほど経験値は上がっていく。たとえば、オール阪神・巨人師匠は、もうレベル99ですよ。僕らもレベル50ぐらいはいってるかもしれない。
ただ、経験値が低くても戦う方法はある。強い武器を持つことです。ハライチとかもそうでしたよね。漫才自体はうまくないけど、「何だ、こいつら……」というインパクトがあった。

2015年にM−1が5年振りに復活し、参加資格を従来の結成10年以内から結成15年以内に延ばしたことによって、経験値の高いやつがごろごろいるようになった。
競馬で言えば、3歳クラシックから、古馬のレースになってしまったようなもんです。だから、昔ほど強い武器を持っていても通用しなくなっちゃいましたね。
それ以上に経験値がものを言うようになってきてしまった。新しいことをやらなくてもいけるぞ、と。

芸歴10年目以内の大会だったら、去年なんかは、ジャルジャルのネタとかがもっと評価されてたと思いますよ。新しいという意味では、いちばん目立ってましたから。
まだ全国的な知名度は高くありませんが、ワタナベにも四千頭身とか、おもしろい3人組がいるんです。下手ですよ。
でも、下手だけど何かおもしろくなりそうな雰囲気はある。M−1もそういう芸人を評価する大会にできないのかなと思うんですけどね。

M-1が芸歴15年目以内と延長措置をとったことで、結局は、M−1が『THE MANZAI』に代わってうまさを競うコンテストになってしまった感がある。
復活してからで言うと、復活1年目の2015年に優勝したトレンディエンジェルがもっともM−1らしい王者だったと思うんです。
ネタも新鮮だったし、若手らしい勢いもあった。漫才でハゲネタをあそこまで多投してくるコンビはいませんでしたから。
あれが逆に結成15年目とかで、妙にうまかったりすると、かえって勢いが削がれるというか、優勝できなかったんじゃないですかね。


塙が語るM-1(2018年夏のインタビュー)
https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/interview/knights_hanawa/4034/2
https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/interview/knights_hanawa/4056