聖地、両国国技館で迎えた中日
貴ノ岩が白鵬に土俵下に落とされ、部屋の他の力士も勢いを見せず惨敗だった
神社に響く信者のため息、どこからか聞こえる「モンゴルゴジョカイガー」の声
無言で帰り始める弟子達の中、師匠・貴乃花は独り土俵で泣いていた
現役時代に手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる部屋の仲間・・・
それを今の貴乃花部屋で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」貴乃花は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、貴乃花ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい土俵の感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰ってお布施を集めなくちゃな」貴乃花は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、貴乃花はふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
部屋から飛び出した貴乃花が目にしたのは、隣町まで埋めつくさんばかりのファンだった
千切れそうなほどに手が振られ、地鳴りのようにファンの声が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする貴乃花の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「光司、稽古の時間だ、早く行くぞ」声の方に振り返った貴乃花は目を疑った
「お・・・親父?」  「どうしました、あなた、居眠りでもしてたのですか?」
「み・・・宮沢さん?」  「なんだ光司、かってに嫁さんを旧姓に戻しやがって」
「勝氏・・・」  貴乃花は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた

師匠:二子山利彰 女将:花田憲子 女将見習い:花田りえ
横綱:貴乃花光司 横綱:若乃花勝 大関:貴ノ浪貞博 関脇:安芸乃島勝巳 関脇:貴闘力忠茂
関脇:若翔洋俊一 小結:隆三杉太一 小結:三杉里公似 小結:浪ノ花教天 前頭:豊ノ海真二

暫時、唖然としていた貴乃花だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ!」
五剣山から廻しを受け取り、土俵へ全力疾走する内川、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、中野新橋の二子山部屋跡で冷たくなっている貴乃花が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った