「6歳からでいい」王者・中国

王者・中国の事情はどうか。
1980年代、元中国代表で70年代に活躍した許紹発さんが指導者研修のため来日した際、「卓球は何歳で始めたらいいか」と聞くと、「6歳。それより早くても遅くてもよくない。
中国では結論が出ている」と即答した。その後、新たな研究が行われたかどうかは不明だが、今も中国選手の競技開始年齢は下がっていない。

04年アテネ、08年北京五輪金メダリストの張怡寧は6歳。朱雨玲、王曼◆(日の下に立)は5歳。王は「中国ではだいたい5歳か6歳。もっと早く始めた方がいいという話はあまり聞かない」という。

4月に来日した73年世界チャンピオンの※(ノギヘンに希)恩庭さんも同じだった。
「あまり早いと骨が固まっていないから、関節を痛める危険がある。正しい動きも身につかず、悪い癖がつく恐れがある。
せいぜい5歳から、必ず軽いラケットを使って遊ばせるぐらいでいい。ボールに触る程度でも感覚は身につく」

張本の父、宇さんにも聞いてみた。「5歳で遅くはないと思う。今はどうか分からないが、中国では近所にやる場所もあまりなかった。
智和も(日本で)親の仕事場が卓球場だったから連れていっただけ。最初は遊んだりボール拾いをしたり。早い方がいいと思って始めさせたわけじゃないです。
ただ、ボールの感覚やリズム感を覚えるには、早い方がいいかもしれない」

中国代表として88年ソウル五輪男子ダブルスで金メダルを獲得し、来日後に全日本選手権で3回優勝した偉関晴光さんも言う。「6歳より前は、やってもフォームが固まらない。
ボールの扱いはうまくなるかもしれないが、うちのクラブ(偉関卓球ランド=東京都北区)にも、親が焦って3歳から始めさせたいと言ってくるから、幼稚園の年長組からでいいですよと言う。飽きちゃう可能性もあるから」

しかし、卓球が国技で、人口13億9000万人の中国には、広大な裾野と強固なシステムがあり、そこから選ばれた子どもたちを緻密な訓練で鍛え上げる。
安定したラリーを続けるためのフォームづくり、体づくりを徹底し、試合に勝つためのサービスや戦術はそれから。

ミスをしない基本技術、体幹など体の強さ、激しい競争を勝ち抜いてきた精神力、それらを土台にした対応能力など、多くの面でまだ日本は及ばない。

磐田合宿に、プロジェクトの委員長として参加した59、63年世界チャンピオンの松崎キミ代さんは、中国が日本を目標としていた時代の選手だ。
子どもたちに、しっかり体を使って打ち、膝のバネで動く基本の大切さと、勝負に臨む態度のあり方を説いた。
松崎さんは61年世界選手権北京大会では団体で優勝し、シングルスは3位だったが、勝っても負けても微笑みを絶やさない姿が、周恩来首相から称賛されたエピソードも残っている。