忘れもしない光景がある。

筆者はサッカーチームのFC町田ゼルビアに所属し、関東2部リーグへの昇格を目指していた。元Jリーガーも複数人が加入し、それぞれの仕事を終えてから深夜まで物凄い熱量で練習を重ね、昇格を疑わなかった。

2004年11月に開催された「第38回関東社会人サッカー大会」で佐川急便埼玉に敗れ、まさかの1回戦敗退。応援に来てくれたサポーターの前で皆で泣き崩れた光景はいまだに忘れられない。熱量でいえば、Jリーグの昇格争いにも引けをとらない、どこのチームも昇格に向けて魂を込めて戦う本当に難しい大会だと思っている。

10月末、葛飾区からJリーグクラブの誕生を目指す南葛SCについて取り上げた。『福西崇史も参戦!南葛SCの負けられない戦い(2018年10月30日配信)』。

今回は後編として南葛SCが今年の「第52回関東社会人サッカー大会」に挑んだ様子をお届けする。

11月3日。南葛SCが戦う初戦の舞台である東京都の清瀬内山運動公園に足を運んだ。驚くことに清瀬駅から30分毎にグラウンドまでの無料シャトルバスが出ている。11時キックオフの試合に備え乗り込んだ10時のバスは満員だった。南葛SC効果だろう。

初戦の相手は埼玉県5位の与野蹴魂会。サッカー元日本代表の福西や小針清允が復帰するということもありグラウンドの周りを観客が囲んだ。そこで思わぬ再会があった。与野のキャプテンで背番号10の内田剛(40歳)だ。

10年以上前に飯能のチームで共にボールを追った筆者の先輩だった。「南葛が勝つと思っている人が多いけれど勝つのはうちだから」力強い握手と共にそう言い放った。

その言葉通り前半は与野ペース。内田をはじめとした与野の選手たちの声がグラウンドに響く。一方の南葛は心配になるほどおとなしい。そんななか、前半の終盤に少ないチャンスを活かし南葛が1点を先制した。

■練習時には和気あいあいとしたムードだった南葛SC

11月1日、大会前最後の練習に足を運んだ。セットプレーの確認が中心で最後にリラックスした状態でのミニゲームをしていた。セットプレーの練習では修正点を選手たちが指摘し合い、最後のゲームでは笑顔があふれていた。コミュニケーションが取れており順調な仕上がりに見えた。

練習後に昨年までJ3のカターレ富山でプレーし、今年の東京都リーグで得点王となったカベッサに話を聞いた。

「得点王を取れたのはチームメイトのおかげです。特に同じブラジル人のレオジーニョとデイビッソンには私生活でも助けてもらっています」

カベッサは練習に対する姿勢や周囲への気遣いなども厚い勤勉な選手である。Jリーグから東京都リーグへカテゴリーも下がり、練習日も少なくなったなか、前向きにやれているモチベーションの源を尋ねた。

「Jリーグで結果を出せなかったので、まだ日本でプレーしたい気持ちがありました。

チームメイトが僕を100%信頼してくれるので、僕もその信頼に応えられるように100%出すことを意識していますし、今年ここに来たのはチームを昇格させるためなので、それがモチベーションになっています。

社会人リーグの特徴として、みんな仕事をしてから時間を作って練習に来ています。そこですごくいいプレーをしていることが僕にとっては刺激になるし、モチベーションになっています」

話を3日の与野蹴魂会戦に戻そう。

先発出場した福西は後半15分に交代した。

派手なプレーはなかったものの声を出してチームのバランスを図っていた。冷静に考えれば、ワールドカップに2大会出場した選手が、このピッチにいることはものすごいことだ。一緒にプレーしているチームメイトはなおさらだろう。

つづく

東洋経済オンライン2018年11月20日12時40分
https://news.infoseek.co.jp/article/toyokeizai_20181120_249330/