9月に宮崎市で野球のU18アジア選手権が開かれた。

 高校日本代表や韓国、台湾といった強豪とともに大会に参加したのが、野球の世界ではあまり耳にしないスリランカ、香港、インドネシアだ。

 案の定と言うべきか、プレーの質は決して高くなく“トンネル”や“バンザイ”を連発。無事に飛球を捕れば、記者室では安堵の声が漏れた。

 上位チームとの対戦では軒並みコールドゲームで敗戦と、実力は雲泥の差で「時間の無駄」「最初から日韓台の3チームでやればいいのに」などの声も聞かれた。

 確かに、アジアのトップを決めるだけならそれでいいだろう。ただ、野球の普及という観点では、大きな意味を持つ。

 東京五輪では復活するものの、国際的に存在感が薄れている野球。「五輪競技から外れると、国からの支援が出ない。こういった子たちが打ち込める環境が整わなければ、野球離れはさらに進んでいく」と、悪循環を懸念するのは、アジア野球連盟の小山克仁審判長だ。

 国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として世界各地で指導経験を持ち、今大会でも国内の用具メーカーに働きかけてインドネシアとスリランカへグラブを寄贈した。

 「実力だけでなく、世界一の貢献も日本の役割。野球の未来のために、自分たちでライバル国をつくっていかないと」と使命感を口にする。

 日本がサッカーのワールドカップ(W杯)に出られるようになったのは、ここ20年のこと。ラグビー日本代表も1995年のW杯でニュージーランドに17―145の大敗を喫した。

 今では強豪国と争える競技だって、一昔前までは弱小国として扱われていたのだ。

 今大会の下位3チームも、まだまだ成長過程のまっただ中。小山氏は「彼らにとって日本と戦えるのは何よりのモチベーション。強いチームと戦って、実際に見たものをまねする。それがどんなスポーツでも上達への一番の近道だから」とがむしゃらでひたむきなプレーを見守った。

 閉会式では選手の表彰が行われ、スリランカから二人の名が呼ばれた。

 ベストナインの指名打者部門に選ばれたディニス・カウィーシャ選手は「信じられない。夢のよう。とても自信になる」。母国ではクリケットが国民的なスポーツとして親しまれる一方、野球場と呼べるグラウンドは国内に一つしかないという。

 最多盗塁に輝いたラクシャン・ヘラス選手は「ナイターも、あれだけの観衆の中でプレーしたのも初めて。この経験は自分にも、スリランカにとっても大きい」と大事そうに記念の盾を抱えた。

 明徳義塾高(高知)に野球留学していたインドネシアのリム・アンダーセン選手は「U12、U15も経験してきたが、レベルが上がっているのを感じている。自分の経験を生かし、将来的にはインドネシアの監督をやってみたい」と夢を語った。

 いつの日か“かつての弱小国”が日本に一泡吹かせる姿を見てみたい。

吉本 泰平(よしもと・たいへい)プロフィル

2011年共同通信入社。富山支局で警察を担当し、その後、名古屋支社と大阪支社の運動部でプロ野球や高校野球などを取材する。北海道出身。

11/7(水) 15:07配信 47ニュース
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