■時代のヒーローたちは若くして亡くなってしまう
私の時代のヒーローたちが相次いでこの若さで亡くなってしまう。悲しいことです。しかし「なぜこの若さで?」と思う人は次のデータをご覧になってどう思われるでしょうか。

戦後の土俵に上がった歴代の横綱、つまり双葉山から後の代の歴代横綱を調べると隆の里さん以前の41人の横綱のうち実に38人がすでに鬼籍に入っています。平均没年齢は実は62歳。いまでも健康に活動されているのは輪島さん(70)、三重ノ海さん(70)、二代目若乃花さん(65)の3人だけです。

伊勢ヶ濱親方つまり元・旭富士関が58歳。八角理事長つまり元・北勝海関と芝田山親方こと元・大乃国関が55歳で、それ以降の横綱含めまだ還暦になっていらっしゃらない元・横綱はもちろんこのリストには入っていません。とにかくそれよりも年長の元・横綱の平均没年齢があまりに若い。

平均没年が62歳だと言うと相撲に詳しい読者は「27歳で急逝した玉の海さんが平均を下げているんじゃないか?」と思うかもしれませんがそうでもありません。サンプル数が少ないというのであれば戦後土俵に上がった大関も加えて没年を計算すると平均の没年齢は60歳とさらに下がります。貴ノ浪さんが43歳、北天佑さんが45歳、人気大関だった貴ノ花さん(貴乃花のお父さん)が55歳と大関もやはり短命の傾向にあります。

お亡くなりになったそれぞれの事情はあるので深くは立ち入りませんが、大相撲の頂点にいらっしゃる方々はその命を削る仕事をしているということまでは申しあげておきたいと思います。

大相撲の三役の取り組みとは、あの巨躯同士が猛スピードで激突するものです。これを例えて「本場所中は毎日、軽トラックと正面衝突しているようなものだ」という表現を聞いたことがあります。それが土俵人生の続くかぎり続いていく。そのようなお仕事です。

当然のことですが、その衝撃はプロボクサーで言えばパンチドランカーを引き起こすレベルの衝撃のはずです。大関では将来は横綱確実と言われた栃東関は「このまま相撲を取り続けたら脳梗塞が再発する」と診断されて引退します。千代大海と武双山はどちらも強い大関でしたが、このふたりの対戦では張り手の応酬で双方血まみれになる激しい一番が名勝負として語られています。見ている側には名勝負でも、本人たちの身体をむしばんでいるはずだという点では心配です。

■とにかく食べて太るという生活習慣もリスク
脳への衝撃とは別に、身体を大きくしたほうが有利だという相撲の特徴から、とにかく食べとにかく太るという力士の生活習慣も、その寿命には影響を与えているはずです。

別の分野のアスリートで言えばボディビルダーがこの問題を抱えているようです。私が出演している『モノシリスト』というテレビ番組で小島よしおさんが出題したクイズに「アメリカのボディビルは日本と本質的に違う点があるのですが、それは何でしょう?」という問題がありました。ボディビルに詳しい小島よしおさんによれば、アメリカのボディビルはスポーツではなくエンターテインメントだということです。そのためステロイドの使用が許可されているというのです。

私も興味をもったので、ボディビルに詳しい友人にお願いしてアメリカのボディビル大会の最高峰であるオリンピア2018の観戦に連れて行ってもらいました。出場する世界の頂点のボディビルダーたちは皆、すばらしい肉体美を披露しているのですが、友人に言わせると、「あの状態にもっていくのは生命の危険と隣り合わせだ」というのです。

実際に体脂肪率を極限まで落とす関係で、ステロイド抜きでも低血糖でふらふらになる。だからあの状態になれるのは年に1回が限度で、何度も大会を開催することは無理なのだそうです。そしてアメリカのボディビルダーは実際、若くして亡くなる人が少なくないといいます。

同じ、肉体に極度の負担をかけるスポーツの場合で考えると、大相撲の問題はその試合の頻度でしょう。

プロボクシングの世界タイトルマッチは年に1度か多くても2度開催するのが限度です。毎月ボクサーが興行に出場したとしたら、それこそボクサー生命どころか本当の生命に赤信号がともるはずです。

つづく