一躍、時の人になった。テニスの全米オープン女子シングルスで日本人史上初の四大大会初優勝を成し遂げた世界ランキング7位・大坂なおみのことだ。元世界ランキング1位のセリーナ・ウィリアムズ(米国)を相手にストレート勝ちし、栄誉をつかんだ20歳のヒロインに日本中が大熱狂。凱旋帰国を果たすと一挙一動に熱い視線が注がれ、そのフィーバーは最高潮に達している。

大坂なおみに、横やりを入れてはいけない

 「東レ パン パシフィック オープン」(アリーナ立川立飛 及び ドーム立川立飛)では9月19日の2回戦で2014年に全豪準優勝を果たした同29位のドミニク・チブルコバ(スロバキア)と対戦することが決まった。決して侮れない相手だけに13日の帰国以来、多忙なスケジュールに忙殺され気味の大坂がどこまで本来の力を発揮できるかはどうしても気にかかる。「いつもと同じようにジムでしっかり調整ができている」と強調する本人の言葉を信じたいところだ。

 それにしても、この大坂に関する日本国内の騒ぎっぷりはすさまじい。もちろん彼女が注目を浴びて人気爆発のムーブメントを引き起こしていることは素晴らしいと思うが、ただし1つだけ違和感を覚えずにはいられない点がある。一部でやたらと大坂の出自について議論されていることだ。

 周知の通り、彼女はハイチ系米国人の父と北海道根室市出身の母との間に生まれた。大阪出身で日米の二重国籍を持ちながらもテニス選手としては日本国籍を選択し、日本オリンピック委員会から強化指定選手として認定を受け、現在に至っている。3歳から米国に移住し、生活圏が日本ではなく海の向こう側にあることで日本語は勉強中ながら完ぺきとは言えず基本的なコミュニケーションツールは英語だ。

彼女には何の関係もないこと

 こうした背景を巡って少数派とはいえ一部で「日本人として扱うのはどうなのか」というイチャモンが大坂に付けられていることは非常に残念であり、嘆かわしい。実際、帰国会見の際にもメディアに「アイデンティティー」についての質問を無茶ぶりされ、大坂本人が明らかにムッとした表情を見せながら「私は私」と答えたシーンは複数の媒体でも報じられた。申し訳ないが、バカげていて大変失礼な質問だと思ったのは筆者だけではないだろう。

 日本はもう少し「グローバルスタンダード」が進んでいるかと思っていたが、それは早計だったようだ。“ハーフ”を日本人扱いする点に疑問を投げかける指摘や本人に対して一歩間違えれば差別的とも受け取れるような質問が向けられてしまうところには、やっぱりこの国にはまだまだ昔ながらの悪しき「鎖国文化」というか「島国意識」が気付かないうちにいまの代にまで残ってしまっているのだなと感じずにはいられない。

 別にいいじゃないか。大坂が「私は私」という言葉を使ったように、彼女には自然体で何に対しても束縛されることなく自分らしさを貫き続けてノビノビと振る舞ってほしいと願わずにはいられない。無理強いして「純粋な日本人」とか「アイデンティティー」がどうのこうのとか、そんな難しく堅苦しい語句でがんじがらめにしてしまうのは大坂にとって実はとても気の毒なことなのではないだろうか。もっと言えば、彼女には何の関係もないことだ。

 冒頭でも触れたが、彼女は現在も二重国籍でありながらテニス選手としての国籍は日本を選択し、米国を拠点にしながらプロプレーヤーとしての高みを目指して日々まい進を続けている。ルールにのっとって何1つ間違ったことはしていない。心強いことに2020年の東京五輪に日本代表として出場したい意向も口にしているが、そんな彼女の純粋な気持ちに水を差すように出自や日本人の定義うんぬんを持ち出す人の神経が理解できない。大きなお世話だろう。

つづく

9/18(火) 11:30配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180918-00000029-zdn_mkt-bus_all