文=片田珠美/精神科医2018.09.14
片田珠美「精神科女医のたわごと」
https://biz-journal.jp/i/2018/09/post_24790_entry.html

 次男が覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕された件について、女優の三田佳子さんが報道各社にコメントを発表したが、私は違和感を覚えた。私が引っかかったのは、「統合失調症を抱え」という箇所で、本当に統合失調症なのだろうかという疑問を抱かずにはいられなかった。
 このような疑問を抱いたのは、次の2つの理由による。

(1)統合失調症の患者が覚せい剤を使用することはまれ。
(2)覚せい剤の使用によって発症する覚せい剤精神病では、幻覚や妄想など、統合失調症に類似した症状が認められる。

(2)については解説が必要だろう。覚せい剤を体内に取り込むと、脳内のドーパミンという神経伝達物質が過剰になり、それによって幻覚や妄想が出現するのが覚せい剤精神病である。一方、統合失調症も、ドーパミンの過剰によって発症すると考えられている(ドーパミン仮説)。

 ドーパミンの過剰が覚せい剤によって引き起こされるのか、それとも統合失調症によって引き起こされるのかという違いがあるだけで、臨床症状がよく似ているので、ときには鑑別診断が難しい。たとえば、路上で刃物を振り回しながら暴れている人が警察に保護され、幻覚や妄想が認められると、精神科病院に入院させられるが、本人が覚せい剤を使用していた事実を隠していれば、統合失調症と診断される可能性がある。

 当然、精神科医は腕の注射痕を確認する。だが、最近は「あぶり」と呼ばれる加熱吸引や、錠剤の経口摂取が増えているので、注射痕があるとは限らない。だから、覚せい剤の使用によって幻覚や妄想が出現したのに、統合失調症と誤診されることがないわけではない。

 もちろん、臨床症状には違いがある。まず、覚せい剤精神病では幻視が多いのに対して、統合失調症では幻聴が多い。また、妄想内容も、覚せい剤精神病では本人が置かれている状況に反応したものが多いのに対して、統合失調症では現実離れした荒唐無稽なものが多い。このような微妙な違いを観察しながら、診断するわけだが、臨床経験を積んだ精神科医でも判断に迷うことがある。

■ 主治医は本当に統合失調症と診断したのか?

 三田さんの次男が最初に逮捕されたのは18歳のときで、覚せい剤所持の現行犯逮捕である。それ以前から幻覚や妄想などの症状があったのなら、統合失調症の可能性が高いが、それ以降にこれらの症状が出現したのなら、むしろ覚せい剤精神病の可能性が高いと思う。

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