今日もテレビを点ければ、“視聴者の代表”たるコメンテーターたちが、政治から芸能ニュースまで訳知り顔で意見を述べている。

 しかし、よくよく聞いてみると、誰でも言えるような耳触りの良いコメントばかり。自分のことは棚に上げて、他人のスキャンダルに正論を吐く者も絶えない。薄型テレビをますます薄っぺらくする「偽善コメンテーター」の問題は大きい。

「私は暇な老人ですから、日がなテレビに向かってるわけ。ところが、コメンテーターがまぁ酷い。『許してはいけない犯罪です』とか『今後社会全体で考えていかなければならない』とか、毒にも薬にもならん優等生的な話ばかりしている。

 一番許せんのは、“偽善”に満ちた言葉が多いこと。戦争は絶対にダメだ、格差社会是正、性差別反対と、正論を並べ立てるが、話している人間はその問題の当事者でもなく、傍観者にすぎず、真剣に向き合っていない。安物の正義感ほど迷惑な偽善はない。もうこれ以上は我慢できんと思って、こんな本を出したんです」

 そう話すのは、大阪大学名誉教授・加地伸行氏。加地氏の近著『マスコミ偽善者列伝』(飛鳥新社刊)は発売早々3万部のベストセラーとなっている。

 同書は東洋思想研究の第一人者で保守論壇の大御所でもある加地氏が、空虚な正義感と建前論しか話さないコメンテーターを批判するエッセイである。政治家や評論家を次々と槍玉に挙げ、「そのときだけの絶対反対論者」と手厳しく批判する。

〈理想国家作りの夢破れた左筋(ひだりすじ)の連中は、目的、着地点がなくなり、今や、保守政権が繰り出す政策に対して、とにかくなんでもかんでも反対と言うしか生きる道がなくなってきている。(中略)こういうご都合主義を自覚せず、つまりは矛盾に気づかず、その場その場での正義の旗を掲げている。かつては元気だった左筋の成れの果である〉

 加地氏が続ける。

「安保法案も秘密保護法も、成立まではあれだけ猛反対していたのに、法案通過後は途端にトーンダウンする。反対デモの連中と同じです。一点突破で主張し続ける努力や覚悟もない、高みで見物している野次馬です。

 左筋ジャーナリズムは絶滅寸前ですが、その特徴はテレビのキャスターやコメンテーターたちに受け継がれています。地元の大阪では『ミヤネ屋』の宮根誠司が大人気ですが、スタジオのいろんな人に話を振って、最後に愚にも付かないまとめ意見を言うだけ。なんの具体性も説得力もない。持論を語る覚悟がないんです。

 テリー伊藤に関しては、人様のスキャンダルについて上段から正論を述べていますが、言いたくはないが自分も過去に不倫を報じられているではありませんか。なぜそれをまるでなかったことにして他人のことは批判できるのでしょうか。

 長嶋一茂に至っては、なんの取り柄も知識もない単なる素人にしか見えません。説得力のない『うわべだけの正論』こそ偽善であり独善。テレビを薄っぺらくする原因となっている」

 長嶋といえば、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)に出演した際、日本ボクシング連盟の山根明前会長について、「正直言って、僕には悪人に見えないです。泣いたり、お茶目な部分も見え隠れしたりするし」と言いつつ、「役職に残るのは往生際が悪いと思いますよ。何かあったら腹を切ると言ってるんだから、一旦全部辞めないといけない」と責任も追及する。

 何か意見を述べているようでいて、実際にはどの立場からもツッコミを受けないようにした「八方美人論評」に聞こえてしまう。

NEWSポストセブン2018年8月27日11時00分
https://news.infoseek.co.jp/article/postseven_747721/