■重層的に重なり合う2つのビジネス化

川端「では、店主。今回のテーマをお願いします」

浅野「その前に、まず今日は90分でやろう。次の予定があるので」

川端「えっ。いつもダラダラと3時間とか4時間かかるこの対談を!?(笑)」

浅野「サッカーの試合は90分なので、我々もインテンシティを高めていきましょう!」

川端「戦術的ピリオトーキング?」

浅野「(無視)では、早速いきましょうか。今回表紙にしたクリスティアーノ・ロナウドのユベントス移籍はマーケティング・オペレーションという巻頭記事を片野道郎さんに書いてもらったんだけど、サッカークラブのブランディングについてあらためて考えさせられました」

川端「ユベントスのロゴの話でしたね」

浅野「そうそう、従来のエンブレムではなく、アメリカのブランド開発会社に発注して、JUVENTUSというブランドのロゴとしてリニューアルしたグローバルなブランド戦略。ロナウド獲得もその流れの中にあります」

川端「片野さんが最初にロゴの話を大々的に打ち出した時は少しピンとこない部分もあったんだけれど、最近の動きと合わせるとなるほど納得な部分がありますね。ユベントスはU-23チーム作る話とか含めて金があるし、投資しようぜという機運もあるんでしょうね。実際、少し前から有望な若手選手をちょっと異様なくらいに集めていましたが。年代別イタリア代表を調べると、別のクラブにいたとしても、ローンで出しているか元所属がユベントスという選手がやたら多かった」

浅野「俺が面白いと感じたのは、去年に特集した『選手=株式』の考え方を単純に当てはめると、今33歳のロナウドの価値は契約を終える4年後は1億ユーロどころか、もう実質ゼロに近づくわけですよ、引退直前なので」

川端「実際、そのタイミングで引退しても驚きではないですよね」

浅野「しかし、CR7というブランドにはまったく別な価値があって、JUVENTUSというブランドとCR7というブランドをミックスさせられれば、投資額を軽く超える利益を出せるという、移籍ビジネスとはまた別のブランドビジネス的な発想が重層的に絡み合っていること」

川端「何しろウルトラスーパースターですからね。見た目もかっこいい(笑)。あときっと彼は監督にもなるだろうから、どこまでストーリーを作っているかは定かじゃないけれど、引退してユベントスU-23の監督になって、そこからトップチーム監督みたいなこともあり得そう。ジダンって人を思い出す流れですが」

浅野「ストーリーテリングからして、うまいよね。レアル・マドリー時代にCLで直接対戦した時に、美し過ぎるオーバーヘッドシュートを決めたロナウドに敵であるはずのユベンティーノがスタンディングオベーションを送って、それに感動したとかさ」

川端「そこから仕込みだったんじゃないかと疑ってしまっている俺は性格が悪いのかな?(笑)」

浅野「でも、ある意味プロレス化しているのは確かだと思うよ。ファンあってのスポーツ興行だからね」

川端「欧州フットボールのビジネス化の流れが行き着く先はプロレスなのか(笑)。まあでも『因縁』の作り方とか利用の仕方は元よりそういうところあるけどね。Jリーグはそういうのがどうも苦手だけれど」

浅野「そう、サッカービジネスのトレンドは“株式化”と“プロレス化”(笑)。サッカークラブの収入は『入場料収入』『TV放映権料収入』『マーチャンダイジング』の3種類で成り立っていて、前者2つは欧州サッカーにおいて頭打ちなわけですよ。Jリーグはまだそこにも伸びしろはありそうですけど。よって、ポイントになってくるのは『マーチャンダイジング』、ユニフォームやグッズの売り上げ、スポンサー料収入などですね。そこはクラブのブランドイメージだったり、共感を呼ぶストーリーが作れるかの勝負になるわけです。ロナウドは3大SNS(Twitter、Facebook、Instagram)の合計フォロワー数が世界一という一大ブランドなんですが、それを生かすには受け入れるクラブにもブランディングの知見が必要。ユベントスはSNSのフォロワー分析でもイタリアと南米に強くて、その他の地域のファンが少ないと片野さんも書いていましたが、全世界にファンを持つCR7のブランドを取り込めば、JUVENTUSブランドが強くなってスペイン2強やマンチェスターUといったビジネスの巨人たちに迫れるかもしれない」