第100回の夏の甲子園は、例年以上の盛り上がりの中、閉幕した。観客動員が101万人と史上最多を記録したのは、出場校が「56」と史上最多で、その分試合数も多かったから当然の話だが、大会の深まりとともに、超エリート私学の大阪桐蔭と、地方の公立農業校、金足農業の活躍が際立ち、両者が決勝で対戦したことで、最高潮を迎えた。

興行的には誠に喜ばしい結果になったが、今年ほど、甲子園の運営に厳しい目が注がれた大会もなかっただろう。

その契機となったのは「酷暑」だ。気象庁が「災害級」という異例の表現で警告を発したように、列島は連日、体温をはるかに超える異常高温となり熱中症に倒れる人が続出した。

■高校野球中継のテレビ画面を囲む「高温注意情報」

大会を主催する朝日新聞をはじめとする大手メディアは、「不急不要の外出」をしないように呼びかけた。しかし、その一方で、炎天下で行われる甲子園を喧伝したのだ。NHKの高校野球中継では、「高温注意情報」と題して無用の外出を止め、熱中症対策を呼び掛けるテロップが、炎天下で球児が野球をする中継画像の周囲を囲んだ。これはシュールな絵柄ではなかったか。

大会後半には、酷暑も峠を越した。しかし大会期間中、多くの選手が足がつるなど熱中症の初期の症状を訴え、治療を受けた。熱中症で途中で交代したアンパイアも出た。ぎりぎりの状態での大会運営だったことは間違いないだろう。

それ以上に問題視されるのが、投手の「酷使」だ。

もともと、日本の高校野球は、世界のアマチュア野球の潮流から見れば、異様な存在である。

アメリカでは「ピッチ・スマート」という名前で年齢ごとの投球数と登板間隔を定めている。高校生に相当する17〜18歳では76球以上投げた投手は4日以上の登板間隔を開けなければならない。しかるに今年の夏の甲子園では、金足農業の吉田輝星(こうせい)は、8日の初戦から大会を通じて計881球を投げた。アメリカなど海外の指導者が聞けば、卒倒するような数字だ。

■「甲子園至上主義」という悪弊

すでにアメリカなど海外メディアは、日本の高校野球の登板過多、投球過多には強い関心を持っている。2013年、済美の安樂智大(あんらく・ともひろ、現楽天)が、春の甲子園で決勝戦まで一人で772球を投げた時は、アメリカのジャーナリスト、ジェフ・パッサンが安樂や済美の上甲監督(当時)に取材し「甲子園至上主義」ともいうべき日本の高校野球の特殊性を世界に発信した。

日本からMLBに渡る投手に対するメディカルチェックが厳しいものになっているのも、ほとんどの投手が「甲子園の洗礼」を受けているからだ。

甲子園で多くの球数を投げた投手の将来は、明るいとはとても言えない。

12年前に「ハンカチ王子」との愛称で全国的な人気となった斎藤佑樹は今年30歳となり、進退をかけるマウンドが続いている。他の投手も一時的には全国的に注目されたが、松坂大輔を除いてプロで活躍した投手はいない。その松坂にしても、同世代屈指の投手と言われながら、200勝には遠く届かない。成功したと言い切れないのではないか。

2013年春に772球を投げた安樂も楽天で5勝10敗、防御率3.50とくすぶっている。

881球を投げた金足農業の吉田の前途も洋々とは言えないだろう。

高校生の世代で短期間に膨大な球数を投げれば、その後の野球人生に深刻な影響を与えるのは、疑問の余地がない。選手生活も短くなり、投手を続けられなくなる可能性さえある。

それが自明でありながら、日本の高校野球は毎年のように登板過多の投手を出している。そして多くの大手メディアは、これをもろ手を挙げて賞賛している。

確かに今年の金足農業のように、地方の公立農業高校が決勝まで駆け上がるのは、快事ではあろう。地方経済が縮小し、農業も高齢化が進む中、日ごろは家畜の世話をし、田畑で農作業を学ぶ高校生が大活躍すれば、地元の人々は大いに勇気づけられるだろう。

■メディアの役割

しかし、それを報じる一方で、投手の酷使による健康被害について懸念を示すのが、健全なメディアではないのか。

以下全文はソース先で

2018/08/22 16:10
東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/234656