過去に何度も見た光景だった。

 表現としては“末恐ろしいピッチャー”だ。

 秋田県大会からすべてのイニングを1人で投げぬいている金足農のエース・吉田輝星がまた、快投を見せた。

 準決勝の日大三戦では、2点を先行すると、そのアドバンテージを最大限に生かすピッチングを展開。ピンチに陥ってもしっかりと間を取り、走者のスタートを一歩ずつ遅らせ、打者に対しては変化球を低めにコントロールして、ギアを上げたストレートで強力打線を黙らせた。

 5試合連続完投勝利は見事というしかない。

 限界を超えていてもおかしくない心身の状態でありながら、それでも快投をみせる。

 しかし、吉田のような投手をみたのは過去に1度や2度ではない。

「投げないという選択肢はなかった」

 2006年の斎藤佑樹(早稲田実)しかり、2008年の戸狩聡希(常葉菊川)、2010年の島袋洋奨(興南)、2013年の高橋光成(前橋育英)……。筆者が取材現場に立つ以前では、松坂大輔(横浜)、本橋雅央(天理)、大野倫(沖縄水産)などもいた。

 彼らはどんな苦境であっても、最高のパフォーマンスを見せたものだった。

 連投を重ねた後でもストレートは最速に近い球速をマークし、変化球は低めに決まった。甲子園という舞台を前にして、彼らは出場を避けることはしなかったし、どこからそんな力が湧き出てくるのか、というピッチングをした。

 「投げないという選択肢は僕の中にはなかったです。なぜって、なんでこの日まで練習したのか。優勝するためにやって来たんですからね」

 今から10数年前、そう語っていたのは天理の本橋さんだった。

 甲子園という舞台では、そう思わざるを得ないというのが球児の心理だろう。

 しかし……話を吉田に戻すと、投げすぎだ。

球数制限の障害は「不平等」。

 彼が今大会で投じた投球数は700球を超えた。秋田大会を含めると、おそらく1000球を超えているはずだ。たった1カ月余りでのこの投球数は限度を超えている。と同時に、登板間隔も試合を勝ちあがるたびに、短くなっている。17、8歳の高校生に課していいものではないだろう。

 球数制限などのルール化を推奨する声は多いが、日本高校野球連盟は二の足を踏んでいる。

 その理由は「不平等」が生じるからだ。

 日本高校野球連盟の竹中雅彦事務局長がタイブレークの導入を決めた際に、こんな話をしている。

 「タイブレーク制度の導入は再試合の防止であって、投手の負担軽減のための次善策だと思っています。本腰を入れていくのであれば、投球回数制限、球数制限に踏み切ることが必要だなと思います。

 ただ、甲子園に出てくるような潤沢な部員数を誇る学校は一握りしかない。9人をそろえるのに必死な学校が多いんですね。そこにスポットをあてるべきだと思います。そういったチームのことを考えると、すぐに導入するのは難しい」

 確かに、球数制限は複数の投手を揃えることが難しい公立校には不利なのかもしれない。

 私学のように何人もの部員を抱えるキャパを有していないし、たとえたくさんの部員を獲得することができても、それを鍛え上げるだけの環境が整っている学校は少ない。高野連の言い分には一理あるのだ。

 しかし、では今の甲子園の日程は平等といえるのだろうか。

8/20(月) 18:46配信 ナンバー
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