天才プレーメーカーがJリーグのピッチに立つ。夢のような本当の話だ

忙しい、忙しい。大盛況に終わったロシア・ワールドカップの"ロス"に悩む暇は、実際のところ、ほとんどなかった。Jリーグが今、大きな注目を浴びているからだ。
 
 スペイン代表としてプレーした最後の試合、7月1日のワールドカップ・ラウンドオブ16、ロシア戦から、わずか3週間。世界トップの舞台で親しまれてきた天才プレーメーカー、アンドレス・イニエスタが、Jリーグのピッチに立つ。夢のような本当の話だ。J1リーグ17節、ホームゲームの湘南戦でデビューを飾ると見られている。
 
 不安要素は決して少なくない。短期間のオフから、いきなりの公式戦だ。コンディションは100%とはいかないだろう。日本の高温多湿の気候、あるいは欧州に比べて硬いピッチへの適応など、環境面でも問題を抱えるかもしれない。
 
 しかし、それでも随所に見られるであろうイニエスタの輝きは、この目に焼き付けたいものだ。彼の特筆すべき能力は、ギリギリで判断を変えられること。タイミング、相手DFの動きを見ながら、あまり効果的ではないファーストチョイスを迷いなく捨て去り、瞬時にベターな選択肢に切り替えていく。
 
 これが普通の選手には出来ないのだ。無理筋のプレーでも、イチかバチかとやり切って失敗する。そんなプレーはサッカーでは少しも珍しくないのだが、イニエスタという選手は、最後の最後まで、変幻自在の選択肢を持ち続ける。
 
 それが可能になるのは、いつでも触れる位置にボールを置いているからだ。さらに相手に寄せられても、ヒラッといなす技術に絶大な自信を持っている。余裕だ。イニエスタはいつも余裕だ。ギリギリで判断を変える彼のプレーに、「あ〜だまされたっ!」と、ひっくり返るのが楽しみだ。
 
 そして、もう一つ。イニエスタのパスは圧倒的に優しい。味方の足下に吸い込まれるような質を持っている。
 
 それはスルーパスでさえ、同様だ。イニエスタの場合、スペースにオラッと蹴って、味方を懸命に走らせるエゴイスティックなパスはほとんどない。スペースが空いて、なおかつ味方がジャストで走り込むタイミングを計算し、糸引くような優しいスルーパスを出す。これも世界のクオリティー。見逃したくないプレーだ。

イニエスタの加入は、ポゼッションスタイルを志向する神戸にとっても、チームの次元を上げるきっかけになるのではないか。神戸の前線はウェリントンが好調で、対戦相手のDFに対する脅威となっている。彼が相手DFを引っ張り、中盤にスペースを作れば、イニエスタとウェリントンは相思相愛のコンビになるかもしれない。
 
 また、三田啓貴、藤田直之らの中盤に、イニエスタがどのような変化をもたらすか。
 
 夏場の苦しい時期ではあるが、だからこそ、イニエスタのゲームコントロールが重要とも言える。彼が中盤に落ち着きと余裕をもたらせば、神戸はこの酷暑を乗り切る術を見出すかもしれない。
 
 一方、ルーカス・ポドルスキは残念ながら左足の骨折でドイツへ帰国しており、イニエスタとの早期共演は出来ないが、イニエスタが中盤でフィットすれば、ポドルスキのプレーエリアがゴールに近づくことも期待できる。もちろん、彼にとってはバルセロナから外に出る初めての機会であり、すべてが順風満帆とはいかないかもしれないが、神戸にもらす変化は楽しみだ。
 
 ただし、外国人枠の問題があり、センターバックとしてプレーしていた韓国代表MFチョン・ウヨンを放出した穴は決して小さくはないだろう。欧州とJリーグはシーズンのずれがあるため、どうしても欧州のオフシーズンに選手獲得に動くと、埋まった外国人枠の問題に悩まされてしまう。だからといって、普段から1〜2の枠を空けていれば、そもそも外国人枠を有効に使えない。
 
 この点は外国人枠の撤廃を含めて、イニエスタをきっかけに議論が始まった。Jリーグがさらに成長するためには、避けては通れない問題だ。イニエスタが日本のサッカーに与える影響は、想像以上に大きくなるかもしれない。

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