「3.11慟哭の記録」p.111
その日の帰りに近くのドラッグストアに盗みに入った。誰かが裏口のドアの鍵を壊したのだろう。
たくさんの人が店内から使えそうな物を持ってきていた。私も入った。
この震災で私は、普段当たり前のように金を出せば手に入る物が買えなくなる恐怖、つまり物がただなくなっていく恐怖、飢餓への恐怖を嫌というほど思い知らされた。
だからこの時も、ただ「生きたい」という感情のみで動いてたと思う。悪いことをしていると考えないようにしていた。

「美しい顔」P.51
店とはいえ他人の家なのにみんなどんどん入っていく。それが盗みだ、ということに私は気付かなかった。いや気付いていたのかもしれない。
でも悪いことだとは思わなかった。
(略)
私はそれを、悪いことだとは感じていなかった。なぜだろう。なぜだったろう。そのときにはわからなかった。でも今になってようやくわかる。
それは、単に、生きようとすることが良いことだからだ。盗むことを迷いもしなかったのは、生きることに迷いもしなかったからだ。