選手が監督の指示とは違う選択をしてもいい

高校野球において、送りバントのサインが出ているにもかかわらず、「この投手なら打つ自信がある」と打者が自分の判断で強攻に切り替えたとしよう。その結果が、たとえホームランであっても監督から怒られるだろう。

しかし、ラグビーにおいては、そうした判断は「全然OKなんです」と語るのは、東福岡高校ラグビー部の藤田雄一郎監督(45)だ。

「今、話題になっているアメフトとラグビーは似ていると思われがちですが、ぜんぜん違う。アメフトは日大のタックル問題が起きたように、指示命令型のスポーツ。野球もそれに近い気がします。それに対して、ラグビーは自己判断型スポーツなんです。試合は止まらないし、そう頻繁に指示を出せるものでもない。グラウンドにおける全権はキャプテンにある。だから選手が監督の指示と違う選択をしても、全然いいんです」

真っ先に思い出すのは、2015年秋、ラグビーワールドカップのイングランド大会で日本が南アフリカ共和国を下し「ブライトンの奇跡」と呼ばれた試合だ。日本は終了間近、相手陣内に攻め込んでいるときに反則を得た。ヘッドコーチのエディ・ジョーンズはペナルティーキックを指示したが、主将のリーチマイケルは自分の判断でトライを狙いにいった。その判断が奏功し、ヘスケスがトライを決めて、34対32。日本は土壇場で逆転勝ちを収めたのだ。

藤田監督が続ける。

「トライを取りにいこうとした瞬間、エディは怒り狂ってたみたいですね。でも逆転勝ちしたら選手と抱き合って大喜びしていたでしょう。よく判断した、と。そこが競技性の違いでしょうね。プロ野球でも、このピッチャーだったら自分のほうが上だからと勝手に勝負することは許されないのが野球。高校野球だったら、なおさらですよね」

高校野球って、なんで丸刈りなんですか?

東福岡はここ11年で、6度も「花園」の呼称で親しまれる全国高校ラグビーフットボール大会を制した高校ラグビー界最強軍団だ。高校野球では、監督の野球を選手がどこまで深く理解しているかが勝利の鍵の一つになるが、ラグビーで強いチームをつくるためにはその逆の作業をやらなければだめなのだという。

「半分くらいは教えるけど、6から10は自分で考えてやりなさいと言います。それができないと高校卒業後、トップレベルのラグビーにはついていけない。選手のキャパシティーを監督で埋めちゃいけないのがラグビーというスポーツなんです」

藤田監督は、競技性の違いが練習方法の違いとなって表れている例をもう一つ挙げた。それは時間だ。

「ラグビーは野球と違ってタイムスポーツなので、どんなにやりたくても前半後半30分ずつ、計60分で終わり。なのに3時間も4時間も練習しても意味がない。だから、まあ、1時間半から2時間くらいでまとめるようにしています。練習の強度は試合の1.5倍あればいいかなと思っているので」

高校野球において、これほどまでに短い練習時間で全国の頂点に立つことなど、ほぼ不可能だろう。

練習方法の相違については、藤田監督は競技性の違いからくるものだと理解を示していた。ただ、「僕の大きな疑問のうちの一つ」として首をかしげたのは頭髪だった。

「高校野球って、なんで丸刈りなんですか? うちは丸刈り禁止です。髪を切ったら頭を守れないじゃないですか。昔は高校ラグビーでも丸刈りにしている高校がけっこうありましたけど、今はもうほとんど見かけない。高校野球だと、髪を伸ばしていることが悪みたいな印象がありますもんね。負けたら、髪なんか伸ばしているからだって言われそう。大変ですね……」