歴史的勝利でにわかに盛り上がる
「グループリーグ突破」への期待

 現在開幕中の2018 FIFA ワールドカップ ロシア大会。6月19日、グループHの日本 VS コロンビア戦は、日本人の記憶に残る試合となった。

 試合開始後6分の決定機に、香川真司選手のゴール枠を捉えたシュートをコロンビアのMFがまさかのハンドで遮り、一発退場。そこから歴史的な勝利への進撃が始まったのである。

 直後にPKを香川が冷静に決め、先制点を奪取。そこからアディショナルタイムを加えた90分間、FIFAランキング61位の西野ジャパンは、同16位の強豪コロンビアに対して、11対10の数的優位で試合を運ぶことができるようになった。

 個人の身体能力では途中、明らかな差を見せつけられるシーンもあり、同点に追い付かれもした日本だが、徐々に試合を支配するようになり、後半28分に2点目をあげるとそのまま試合を逃げ切った。ワールドカップで、日本が南米チームから初の勝利を挙げた瞬間だ。

 2010年の南アフリカ大会で「まさかのグループリーグ突破」を果たした岡田ジャパンを思い起こさせる期待感も、急速に広がり始めた。この勢いで世界27位のセネガル、世界8位のポーランドのどちらかをジャイアントキリング(番狂わせ)で倒してくれないかというのが、日本国民の切なる願いであろう。

 さて、このタイミングでサッカー日本代表にとって一番重要なものが何かというと、それは「監督力」である。というのも、ハリルホジッチ前監督を2ヵ月前に電撃解任し、直近では過去ワースト2番目までFIFAランキングを下げているというチームだ。同じ戦力で、急にサッカーの戦略・戦術を大きく変える時間もない中で、一番差が出せるのは、指揮官である西野朗監督の力しかない。

 そして指揮官の力、つまりリーダーの技術というのは、私が専門とする経営学の領域のテーマでもある。その観点から、W杯で差が生まれる監督力の「3つのポイント」を挙げてみたい。それらをランキング形式で紹介しよう。


勝利に不可欠な「監督力」
3つのポイントとは?

 監督力の重要な要素第3位は「誰を選ぶか」である。

 経営の世界でも、前任者が解任され組織を任された新しい事業部長が、限られた戦力と限られた予算で業績を建て直さなければならないシーンが多々ある。そのような場合、短期的な結果を大きく左右するのが「人事」である。

 新しいリーダーには「人事をいじらないほうがリスクを避けられる」という誘惑が立ちはだかる。組織の中の有力な部課長を動かしてしまうと、傷口が広がるケースがある。西野監督に関して言えば、ベテランの域に達した川島、本田、岡崎、長友、長谷部を使うか外すかという判断が監督力として重要なのだが、外さないほうがリスクは小さい。

 一方で、あくまで一般論ではあるものの、サッカーにおける主戦力は20代だ。つまりこの大会では、新しい戦力が覚醒したほうが現状が変わる可能性がある。経営の世界の言葉で言えば、「人事を一新しないと大きな変化は起こせない」ということだ。

 本来は、それを少なくとも2年くらいかけ、試し続けた上で決断するところを、西野監督は実質的に3週間の知識の中で判断しなければいけない。残酷な話ではあるが、実際にそこで西野監督の監督力が試されるのだ。

 監督力の重要な要素第2位は「コミュニケーション」である。

 監督にもリーダーにも色々なタイプがある。言葉少なに周囲を引っ張る寡黙な「家康タイプ」から、賑やかに1人1人に声をかけ人心を掌握する「秀吉タイプ」まで、色々なリーダー像が成立し得る。しかし、短期間で大きな成果を出せるのは、どちらかと言えば「秀吉タイプ」だ。

 べつに、なんでも賑やかにやれという意味ではない。短期間でチームを覚醒しようと思えば、コミュニケーションの量で差が出るということだ。