プロ野球を対象としたスポーツ振興くじの導入が暗礁に乗り上げた。

日本野球機構(NPB)と超党派の国会議員でつくるスポーツ議員連盟は2019年を目標に「野球くじ」の導入を議論していたが、条件面での隔たりが大きく話し合いは物別れに終わった。

球界関係者によるとNPB側はくじの売上額にかかわらず、最初から一定額を受け取ることを希望。「具体的な内容は言えないが、年間15億円から20億円までの幅で要求していた」と関係者は話した。
しかし、文部科学省やスポーツ庁はNPBの要求に応じれば01年から本格発売されているサッカーくじ(toto)に悪影響が出ることを危惧し、最後まで首を縦に振らなかった。

サッカーくじは売上金の50%を当せん払戻金に、経費などを差し引いた収益のうち国庫納付金に4分の1、
スポーツ振興の助成に4分の3が配分されている。NPBの要求に応じてしまうとサッカー界への配分比率の見直しを迫られるわけだ。

「まさに両者は水と油のような状況に陥った。19年導入は絶望的で、話し合いを再開するメドもない」とは球界関係者の言葉だ。
それでもNPB側はあくまで交渉継続を求めている。野球振興策の積立金があと数年で底をつくという台所事情が背景にあるからだ。

一方で野球くじ導入が暗礁に乗り上げた後、NPBの内部では新たなプランも検討された。それは野球の底辺拡大のための基金をプロ野球12球団から徴収するという考えだ。
観客動員やグッズ販売、放映権料などで得た球団の収入から一定の金額をNPBが野球振興のために受け取る、というプラン。

「収入の多い球団と少ない球団があるので、傾斜徴収という案も出ている」と球界関係者は話したが、
これも収益の多い球団はそれだけ企業努力でファンを開拓し選手の年俸総額も高い。傾斜徴収には猛反対するだろうから前に進むとも思えない。

そもそも野球くじをどうして導入したかったのか。原点は少子化や子供の野球離れで日本の野球人口が縮小している現状を食い止めるためだ。
全国のグラウンド施設の拡充や子供への野球用具の調達などの原資に野球くじの売上金を使う、という考えだった。

あるプロ野球の大物OBは一見、奇想天外な野球振興策を話した。

「野球振興をくじに頼ることがそもそも間違いだ。いくら結果を予想できない形にしても、野球賭博の心配は必ず出てくる。
それより、野球をより振興させるならプロ野球の球団数を今の12球団から16球団ぐらいに増やしたらいい。

4球団増えればプロ野球選手は単純計算で280人増える。高校や大学、社会人から高い年俸を受け取れるプロになれる人が増えて、自然と底辺も拡大する」

つまりプロ野球の門戸を拡大することが逆に底辺も拡大する、という発想。現在のプロ12球団のうち、年間10億円以上の赤字を出している球団はないといわれる。
プロ野球の球団を持つことでの広告メリットは相当なもので、新規参入を希望する企業は案外多いのかもしれない。
セ・パ2リーグ制がスタートした1950年は15球団だった過去もあり、耳を傾ける策かもしれない。

いずれにせよ、野球くじ導入の交渉決裂は、野球振興の方法論を再考するいいタイミングになるだろう。   (特別記者 植村徹也)

2018年6月12日 16時2分 産経新聞
http://news.livedoor.com/article/detail/14852834/