「コートジボワールでは、ディディエ・ドログバは大統領よりも力がある」。

そして国の平和を守ることにかけては「フランス軍よりも国連平和維持軍より
も実績がある」のだと。

なぜドログバがサッカーを超えた国民的ヒーローなのかというと、
「コートジボワール内戦を止めさせた男」と国民に敬愛されているからです。

コートジボワールでは2002年、与野党政治家や軍部が入り乱れる権力争いか
ら内戦が勃発し、政府派の南部と反政府派の北部に分裂。

「北部の住民は真の国民(Ivoirite=イヴォワリテ)ではない」などという
南部の政府派がまき散らす分断の思想に反発して、「南部出身」のドログバが、
みんな同じ「Drogbacite=ドログバシテ」なのだと主張する運動を開始。

「Elephants」と呼ばれる代表チームとチームカラーのオレンジは、南部出身
者も北部出身者もひとつになって戦う国民融和のシンボルとなりました。

そして2005年10月、06年ドイツ大会の本大会進出を決めた試合の後、マイク
を手にしたドログバは、更衣室でチーム全員と一緒に、生中継のテレビカメ
ラに向かってひざまずき、内戦をやめるよう訴えたのです。カメラに向かっ
てドログバは、

「コートジボワール市民の皆さん、北部出身の、南部の、中部の、そして西
部出身の皆さん、私たちはこうやってひざまずき皆さんに懇願します。許し
合ってください。コートジボワールほどの偉大な国がいつまでも混乱し続け
るわけにはいきません。武器を置いて、選挙を実施してください。そうすれ
ば全てが良くなります」

これが大きなきっかけとなって、1週間以内に戦闘が止まったのです。

さらに2007年6月、アフリカ選手権予選の対マダガスカル戦は当初、
南部アビジャンで予定されていたが、ドログバ自らが大統領に直訴し、
北部にある反政府軍の拠点ブアケでの開催に変更。南部出身者でしめられ
ていた政府首脳も、敵対する北部の街を訪れ、出身地に関係なく「コートジ
ボワール」を応援し、そしてドログバたちはマダガスカルを5-0で下した。

『インディペンデント』紙に、反政府軍「新勢力」(FN)の元指揮官は

「ドログバにそんなことができるとは思ってもいなかった。しかし彼の行動
のおかげで、国は再統一への道を前に進んだんだ」

と話しています。

そして同記事いわく、

“ドログバはこれで神に近い存在となったのだ”と。