洗脳とは、主義や思想を繰り返し吹き込み、それ以外の考え方を捨てさせることだ。宮川泰介選手によるタックルを見たアメフト経験者はおしなべて、「あいつ、ルール知ってんのか?」と目を疑ったという。選手を殴り合わせ、自主性を奪う。“ルール無視タックル”以外の考え方を捨てさせ、永久追放となった内田流指導とは。

「内田は前任の篠竹(幹夫)監督時代に長らくコーチをやっていましたが、後輩思いの良い指導者でした。篠竹監督は無理難題を課すことも少なくなかった。そんな時でも内田は、“聞き流しとけばいいからな”とアドバイスしていたほど。でも、一度コーチを外され、その後に再びコーチとして戻ってきてから、無茶な要求を出す今のスタイルに変わってしまったんです」

 と話す日大アメフト部のあるOBは、「格下チームとの試合でこんなことがあった」と、以下のように振り返るのだった。

「前半が終了した時点で同点だったんですよ。監督はハーフタイムに主だった選手をロッカールームに呼び、“お前ら自分たちで殴り合え”と言ったんです。マジかぁと思いましたが、仕方なく両隣の選手を殴る。当然、思い切り殴れるわけないじゃないですか。それを見て監督は、“もっと思い切りやれ”と。それで、2回も3回も殴らせるわけです。気合入れろって意味だと思いつつも嫌ですよね。痛いし、逆に気持ちが萎えますし。今考えてみれば、ケガして後半に出られなくなる可能性だってあったわけですから、全くもって意味不明ですよね」

 そして、

「それでも……」

 こう話を継ぐのは、同時代に在籍した別のOBだ。

「反則をしたら内田監督から怒られましたよ。今回問題になったタックルをしたら、ベンチに下げられていたと思います。にもかかわらず彼はそうなってはいない。やはり指示があったと考えざるを得ませんね」

視野狭窄

 仮にあなたが宮川選手だったらと問うと、

「やらないと思います。“できません”とはっきり断るのではなく、何も言わずに試合に出て、プレーの中で全力を尽くす。だけど、彼はそんな考えに至らなかった。つまり、それだけ精神的に追い込まれていたということだと思います」

 試みに、他大学のアメフト部選手に訊くと、

「(内田監督の右腕で、辞任した)井上(奨)コーチは“関学との定期戦がなくなってもいいからやれ”と言っていますね(本人は否定)。これは、歴史と伝統のあるとても大事な試合が中止になってもよいほど、監督はお前のことを思ってくださっているんだぞと畳みかけている。狡猾ですよ」

 最後に、精神科医の片田珠美氏の解説を聞こう。

「ある種の洗脳状態にあったと思います。洗脳というのは、弱みを握られていると非常にかかりやすい。実際、宮川選手は“言うことを聞かなければ試合に出られない”という状態にあり、結果、内田監督は彼を支配していたと言えるでしょう」

 それに加えて、

「内田監督は日本代表にも“行くなよ”と追い詰めています。そういった、いわばムチで叩いたところで、“QBを潰せば試合に出す”とアメをちらつかせる。宮川くんにしてみれば、蜘蛛の糸にすがるような思いで、そのアメに飛びついてしまったのではないでしょうか。しかし、洗脳状態とは、視野狭窄、思考停止になってしまうものなのです」

 覚醒して“自主”会見した宮川選手。首脳陣にしっぺ返しを食らわせた恰好である。

「週刊新潮」2018年6月7日号 掲載

6/5(火) 6:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180605-00543186-shincho-soci

写真
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