後ろで守るサッカー(守備的サッカー)は非効率的。ほぼ世界的にそういう認識で一致しているからだ。かつては試合の後半、たとえば1−0でリードしているチームが、守り倒そうと4バックを5バック(3バック)に変えるケースを見ることができた。逃げ切りを図る手段として用いられることもあったが、いまではその使い方さえほとんど見かけない。後ろで守ったら危ない。弱者ほど、そうした意識を強く持っている。

 にもかかわらず、西野監督は3−4−2−1にトライした。繰り返すが、この期に及んで。ハッキリしたのは、高い位置で守る意識が低いことだ。近代的か古典的かと言えば、後者。就任記者会見の際に、小さな声で「オフェンシブなサッカー」を口にした西野さんだが、残り3試合になって3−4−2−1をテストする姿を見せられると、発言に偽りありと言いたくなる。

 もっともこの3−4−2−1は、日本ではかなりメジャーな布陣だ。Jリーグでの使用率は年々上昇。J2ではごく普通に見かける。現日本代表コーチの森保一氏は、この布陣を用いてJリーグチャンピオンにも輝いている。世界的に見て、日本はかなり特殊な地域になる。

 それをもって日本式サッカーと言われると、閉鎖的な島国根性を見るようで、頭が痛くなりそうだが、それはともかく、日本人の代表監督が、それにつられるように、この期に及んでテストしてしまう理由は、こうした背景と深い関係がある。

 話はこれだけに終わらない。西野監督は試合後、こうも述べている。

「ガーナのシステム(4−3−3)と、個々の選手の特徴を消すような戦術を考えれば、3バックは適当ではなかったかもしれないです」

 3−4−2−1が、ガーナの4−3−3に対してミスマッチになることを、あらかじめ認識していたというのだ。すると、先述した会見冒頭の言葉と矛盾が生じる。

「勝利を前提とした上でトライしたい。勝ってロシアに行こうと、この数日間、準備してきた」のではなかったのか。「結果が出ず残念」と言うのなら、3−4−2−1で戦うべきではなかったのだ。

 そして何より、わざわざトライした肝心の3−4−2−1は、使用できるめどが立たなかった。企画倒れ。空振りに終わった。収穫ゼロ。貴重な1試合をムダにしたと言いたくなる理由だ。

 西野監督は、いったい何を目的にこのガーナとの壮行試合に臨んだのか。焦点はボケボケだ。そして最後にひと言付け加えるなら、サッカーはとてもつまらなかった。ハリルジャパンといい勝負だ。

 そもそも、サッカーになっていなかった。相手のペナルティエリア内にボールを運んだ回数は、いったい何度あったというのか。遠目から可能性の低いプラスのクロスボール(別名、放り込み)を立て続けに蹴り込む姿は、前時代的サッカーそのものだった。

 ハリルホジッチのサッカーに異を唱えるのなら、可能性の低いロングボールは即刻、禁止にすべきだろう。縦蹴りが、斜め蹴りに変わったに過ぎない。これでは日本人選手の長所をピッチの中に落とし込むことはできない。

 手をこまねいて、中盤フラット型4−4−2への布陣変更も後半31分まで行なわなかった西野ジャパン。前途は限りなく暗いと言うべきだろう。番狂わせを起こしそうなムードは、まったくない。

 マリ戦、ウクライナ戦後に「ハリルホジッチ解任すべし」と述べた原稿で、「後任は誰でもいい。西野さんでも手倉森さんでも可」と記したが、そのひと言をいま、カットしたい気持ちでいっぱいである。

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki