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 それでは具体的にはどこが衝撃的だったのか。スージー氏が最大の要素として指摘するのは、桑田佳祐のボーカルスタイルだ。
 まず「発声」。当時は「しゃがれ声」「ダミ声」とも形容された。一般的にはリトル・フィートのボーカル、ローウェル・ジョージやエリック・クラプトンの影響が指摘されるのだが、スージー氏は、日本人からの影響も見逃せない、という。影響を与えたと思われるボーカリストとして、スージー氏が名を上げるのは、大瀧詠一、宇崎竜童、柳ジョージだ。

 柳ジョージは、桑田よりもさらにしゃがれた声の持ち主だったが、スージー氏はこんなエピソードを披露する。
「ゴダイゴのミッキー吉野氏から私が直接聞いた話。当時ある歌番組で、ゴダイゴの楽屋を訪ねた桑田から、『柳ジョージさんを紹介してほしい』とお願いされたという(吉野と柳は、伝説のバンド=ザ・ゴールデン・カップスの出身)」
 また、後に「吉田拓郎の唄」を捧げることになる吉田拓郎からの影響も見られる、とスージー氏は分析している。

「発声」とは別の「発音」も、革新的だった。
 子音を英語的に強調する、つまり「カ」を「クァ」、「タ」を「ツァ」と発音する桑田流は、当時としては珍しい特徴だった。また、母音も「ア・イ・ウ・エ・オ」と発音するのではなく、「アとエの中間」のような音を英語的に発音することも。

 この源流としては、まずザ・テンプターズの萩原健一が挙げられるという。
「桑田へのインタビュー本『ロックの子』(講談社)では、子供のころに萩原の歌を研究していたとの発言があり、そこに添えられた、ザ・テンプターズの『エメラルドの伝説』の、桑田本人による物まね発音の表記が、実に示唆的である――『♪むィずうみぬィ〜きみはむィをぬァげッつあ〜』(=湖に君は身を投げた)」
 
 この発音面ではショーケン以外に大瀧詠一の影響も見られるが、それ以上にキャロル時代の矢沢永吉の影響が見逃せない、という。
「『ロックの子』で桑田は、キャロルの歌を『鼻についちゃったんだよね』とあからさまに否定しているが、否定しているということは意識していたということだ。

 そして桑田は何と、アマチュア時代にキャロルのコピーを披露している。
『勝手にシンドバッド』では、ラ行で舌を巻いているのだが、このあたり、ひどく『矢沢的』である」

 このように見たうえでスージー氏はこう語る。
「(桑田のボーカルは)突然変異的に見えながら、実はここに挙げたような、古今東西の様々なボーカルスタイルをガラガラポンした結果として生まれた、あの声、あの歌い方。それこそが、『革命』を推進するエンジンだったのだ」

 もちろん「勝手にシンドバッド」の新しさはボーカルスタイルだけではない。スージー氏は同書で、「桑田語とでも言うべき歌詞」「リズムアレンジ」「独特のベースライン」等、マニアならではの視点で熱く語っている。
 6月25日を前に、懐かしいと思う世代も、朝ドラの主題歌のオジサンという程度の認識しかない若人も、「勝手にシンドバッド」を聴いてみてはいかがだろうか。

(終わり)