元選手の記者が抱いた違和感 反則時の日大ベンチの視線(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASL5J4JMVL5JUTQP015.html

「フットボール界の空は赤か青だったはずなんだ」

日大アメリカンフットボール部の黄金時代を築いた故篠竹幹夫元監督は生前、学生王座を競い合う
赤のユニホームの日大と青の関学大をそう表現した。強烈なライバル意識とともに敬意も払ってきた
学生日本一21回と28回を誇る名門校同士。そんな両校の関係に亀裂が入る出来事が起きた。

 6日に都内であった51回目の定期戦。日大攻撃が終わり、関学大に巡ってきた攻撃の1プレー目
だった。

 関学大クオーターバック(QB)が右に走り、パスを投じた。不成功となり、QBは悔しそうに空を
見上げながら減速。その後だった。体重100キロ近い日大守備選手が背後からタックル。パスを投げ
終えたQBへの接触は危険なため反則となるが、この守備選手はパスが投げられてから約2秒、
10メートル以上も追いかけて突っ込み、QBを負傷退場させた。審判は「不必要な乱暴行為」の反則を
取った。本来なら、チームの士気を下げかねない悪質な反則行為をした選手は、すぐベンチに下げられる。
だが、日大は動かなかった。

 守備選手はさらに3プレー目、5プレー目にも反則行為を続けて資格没収(退場)に。関東学生連盟は
9日の理事会で、守備選手は対外試合の出場禁止処分、内田正人監督には指導者責任を問い、厳重注意処
分とした。

 「あり得ない」。1プレー目の反則行為について、日本協会の国吉誠会長はそう語った。日大の守備選
手は、昨季の全日本大学選手権決勝「甲子園ボウル」に出場。世代別の日本代表にも選出された能力の高
い選手だ。チームスポーツであるアメフトは攻守ともに作戦を練って、組織としての動きが重視される。
優秀な守備選手が、なぜ明らかな反則行為に走ったのか、誰もが疑問に思う。

 関学大は10日付で、日大に抗議文を送った。その文書の中で、1プレー目の反則行為を「選手を傷つ
けることだけを目的とした意図的で極めて危険かつ悪質な行為」とし、守備選手、監督から正式な見解を
求めている。

 関学大が提供したものとは別に、観客席側から撮影された映像がユーチューブにある。パスを投げた後、
多くの人は普通は球の行方を目で追うが、日大ベンチの一部の選手、コーチは球ではなく、守備選手の動き
を注視しているように見えた。日大の学内調査で監督、守備選手ともに指示は否定しているが、不自然に感じる。

 春の日大戦を予定していた法大、東大、立大は「安全が担保されていない」として連盟に中止を申し入れた。
スポーツ庁も日本オリンピック委員会も問題視している。ルールを逸脱した悪質プレーによって野蛮なスポーツ
とのレッテルは広がるばかりだ。この問題を取り上げるのは、私が関学大の元選手だからではない。記者として
アメフトの危機だと感じるからだ。

 日大は反則行為に至った経緯など真相を明らかにする責任がある。関学大は17日午後1時半、すでに受け
取っている日大からの回答を公表する。(榊原一生)