日本のスポーツ界には、中、高、大学の“部活”内の体育会系気質が根強くはびこってきた。この体質が、しばしば、暴力問題やパワハラという問題を生み出している。

 日大フェニックスは、カリスマ的な存在感を持っていた故・篠竹幹夫監督が、レギュラーを全員合宿所に入れて、徹底的にしごく超スパルタ方式で黄金期を作ったことで知られる。「犠牲・協同・闘争」のチーム方針の元、集中力を高め、甲子園ボウルで優勝を重ねて“サムライフットボール”と賞賛された。内田正人監督は、コーチとして故・篠竹監督を支えてきた人物である。

 高妻教授は、スポーツ心理学の観点から、選手が「ノー」と言えない日本独特の根性礼賛主義、指導者の古い経験主義などの文化、体質を問題視する。

「私の話で恐縮ですが、空手部時代に指導者に“負けるくらいなら相手をノックアウトしてこい!”と言われて、その通りにしようとしたことがありました。今から40年以上も前の話です。前近代的な指導体系、チーム体質であるならば、選手が“指導者に言われたことをやらなかったときにどうなるか”という例をずっと間近で見ていくことで、よりプレッシャーを強く感じることになります。選手は、“できない”“やれない”と言って信用、立場を失うことを恐れます。ネガティブになります。そうなるとノーとは言えないのです。アメフットやラグビーといったコンタクト競技は格闘技的要素が強いものです。スポーツと暴力の境界線を守るためには、なおさらメンタルコントロールが必要になってきます。本来は、そのプレーをする理由を指導者が説明できなければなりません。私は、それを科学的根性論と呼んでいますが、目的を達するために何をどうするべきかをすべて説明し、選手が理解、納得した上でトレーニングという準備を行い、ミーティングでイメージを高め試合に入ることが必要なのです。そういった作業を省き“チームが勝つために言われたことをやれ!”というのは、何十年も前のティーチングであり、とてもコーチングとは呼べないものです。選手をポジティブな考え方にするには、まず指導者がコーチングを勉強しポジティブな環境に変えることが重要になります」
 
 そして高妻教授は、こうも続けた。
 
つづく