こうした声は、確実に永井の心に届いた。「たぶん、離れていた10年間も“音楽をやりたい”という思いは浮いたり
沈んだりしていたのだと思うのですが、“ザバーン”と大きく顔をのぞかせた瞬間があったのです。そうしたら“どうしても歌いたい!”
という思いが湧き出てきて、止められなくなりました。その気持ちを絶対になくさないように新しい作品を作ったのです」。

 永井の“歌いたい”という思いが詰まったアルバム『Life is beautiful』は、昨年自身のデビュー日である7月22日にリリースされ、
10月にはデビュー30周年記念ライブを敢行。完全復活を遂げた。永井はそのときの気持ちを「デビューした20歳のときとまったく
同じ新鮮な気持ち」と表現したが、再出発にあたり絶対に決めていたことがあるという。それは「大手のレコード会社や
事務所のお世話にならず、自分のやりたいことを徹底的にやり尽くそう」ということ。

 会場の手配やチケット販売を含め、すべて永井と仲間だけで準備をした。「宣伝もSNSだけで、『ライブをやります』と言ったものの、
10人ぐらいしか集まらないかもしれないという怖さもありました」と語っていたが大盛況。結果、30周年ライブは全国で17公演行い、
多くのファンが会場に詰めかけた。「もう感謝しかなかったですね。ファンの方も私も泣きっぱなしで、
今思い出しても涙がこぼれるぐらい感激しました」。

 こうした決意には、前述した「やりたいことが本当にできていたのか」という思いが背景にあった。「自分のやりたいこと、
相手がやってもらいたいことに相違があるのは当たり前。商業的な部分で活動していれば、そこで折り合いをつけていくことがプロだし、
私が若いときに経験したことは、歌手としてだけではなく人間としても多くのことを学べた時期でした」と前向きにとらえる。

 「もう50歳。これからあと何年歌えるかわからないと考えると、せっかくこうしてまた音楽を新鮮な気持ちで始めようと思えたのだから、
絶対後悔はしたくない。自分を使い切って、気持ちに嘘をつかず、やれることをやりたい」と力強く宣言した永井。
20代の楽曲を「元気で走っているようなイメージ」と語ると、現在の曲は「明るくスキップするような感覚」と表現する。
この言葉通り、今の永井をみているとワクワクしながら、スキップしながら前を向いているような軽やかさが感じられる。(取材・文・撮影:磯部正和)
(おわり)