◆ボールを持ったまま、いかに試合を“殺すか”
 

方法はさまざまだが、答えはほぼ決まっている。ペナルティーエリア内、ゴールエリアの幅からシュートを打つこと。その地域からのシュートと、その他の地域では得点になる確率が全然違うからだ。
逆に言えば、そこからシュートを打てれば決定力不足もある程度解消できる。中央からかサイドか、上からか下からか、アプローチはいろいろあっても目指す場所は決まっているわけだ。
そこへ人とボールを送り込むディテールを、詰めていくことになる。

もう一つの重要なポイントは、いかに失点を防ぐか。1点取ったら自陣に引いてスペースを与えないというのが定石だが、70%ポゼッションを取る攻撃的なチームに守備力まで期待するのは無理だろう。
そうなるとボールを持ったまま、いかに試合を“殺すか”だ。ボールの失い方、失った後のプレッシング、プレッシングを外された時のリスクマネージメント、
それでもゴール前へ持ち込まれた時の守備対応、GKのレベルアップ、ハイクロス対策を図らなければならない。

「パスをつなぐのが日本サッカー」と定義するなら、そこから全体のゲームプランを想定するだけでもベスト8への必要条件は見えてくるはず。あとは障害になっているものを一つずつクリアしていく。
まず前提となる「強豪国にポゼッション70%以上、ほとんどボールを渡さない」というのは途方もない目標に思えるかもしれない。しかし、それを否定してしまったら出口はなくなる。

パスをつないで強豪国に勝ちたければ、それしかない。スペインは現実的にできているわけで、彼らがことごとく天才選手ばかりというわけでもない。
日本も14年ブラジルW杯時点で60%ぐらいは現実味のある数字だったのだから、70%が不可能ということもないだろう。


◆大事なことは技術委員会がまずは方針を決めること


パスをつなぐことを優先すれば、パスをつなげない選手は当然メンバーには入れられない。パスワーク以外にワールドクラスの武器を持っていても脱落する。
サッカーに正解はないのに、それ以外の考え方を切り捨てることになる。ただ、それを決めないと何も始まらないのだ。

会長は「パスをつなぐサッカー」と言ったが、「堅守速攻のサッカー」でもなんでも構わない。技術委員会は専門家の集団なのだから、
これが日本のサッカーだと結論を出したら自信を持って実行すればいいのだ。10年やってダメだと分かったら過ちを認めて、違う考えのグループにバトンを渡せばいいだけの話。まず決めること。

イングランドは1960年代に決め方を誤り、回復までに多大な時間をロスした。サッカーの進歩への考察を欠き、本質も見誤っていた。それでも何も決めようとしないよりはマシだったと思う。
サッカーの母国のように20年間も迷走するのは長すぎるとしても、トライ&エラーさえ恐れていては何年経っても同じ場所でうろうろしているだけになる。

西部謙司●文 text by Kenji Nishibe