大ピンチになりかねない状況を、逆転の発想でチャンスに変えた。というよりも当面は理想を捨て去り、半ば開き直ったアプローチでチーム作りを進める選択が鮮やかに奏功した。
8試合を終えた段階で7勝1分けと、J1の18チームのなかで唯一、無敗をキープ。2位のベガルタ仙台に勝ち点7差をつけ、独走状態に入りつつあるサンフレッチェ広島の強さの秘密を探っていくと、城福浩新監督(57)が始動前に下した英断に行き着く。

就任前の段階ですでに決まっていた新チームのスケジュールを見たとき、少なからず驚いたと城福監督はいまでも苦笑いする。全体練習のスタートは1月22日。J1のなかでは最も遅い始動で、2月24日の開幕戦まで1ヶ月ちょっとしかない。
加えて、全日程が発表されたリーグ戦では、第2節でアジア王者の浦和レッズと敵地で激突。第3節以降は鹿島アントラーズ(2位)、ジュビロ磐田(6位)、川崎フロンターレ(優勝)、柏レイソル(4位)、横浜F・マリノス(5位)と昨シーズンの上位勢との対戦が続く。

第2節から4連敗を喫するなど、スタートでのつまずきが最後まで響いた昨シーズンは、15位でかろうじてJ1残留を果たした。苦戦が続いた7月には、J1制覇へ3度導いた森保一監督(現U-21日本代表監督)が不振の責任を取る形で辞任している。
昨シーズンの二の舞を避けるためにも、序盤戦でしぶとく勝ち点を積み重ねる必要があった。理想と目の前の現実を重ね合わせた末に、城福監督は腹をくくった。

「まずは守備を構築しないと、リーグ戦を戦い抜けないと思いました。対戦カードがはっきりしているなかで、ここ(序盤戦)で守備が危うければ、おそらく黒星が先行する状況で戦っていかなければならない。もちろん攻撃も追い求めていきますけど、
開幕に間に合わせたのは守備ということです」

初めてFC東京を率いた2008年から、理想として掲げてきたスタイルがある。人とボールが絶え間なく動き、試合を支配し続けることで見ている人の心をも動かすサッカーを、キャッチーな造語『ムービング・フットボール』とともに標榜してきた。

ただ、完成させるには相当の時間を要することもわかっている。広島指揮官への就任会見でも「やりたいと思って数週間後にできるほど、ハードルは低くありません」と明言。
FC東京では監督を2度解任され、J1昇格及び残留に導いたヴァンフォーレ甲府でも具現化できなかった。

これまでの苦い経験から、現実にもしっかり目を向ける必要性を痛感してきた。だからこそ組織的な守備網の構築を急いだ。
8試合でわずか2失点、ひとつはPK、対戦相手を零封すること実に6度という群を抜く堅守に、指揮官は「決して守備的に戦っているわけではない」と力を込める。

「ドン引きして守ることだけが、守備の練習ではありません。いかにして前からボールを奪えるか。
守備をしているけれども、自分たちがイニシアチブを握っているような場面を作り出せるのか、ということも含めて練習してきました」

 基本陣形を「4‐4‐2」として、2トップには前線からの献身的なプレスを求めた。両サイドハーフに対しても然り。ボランチの一角にはJ1でも屈指の運動量の多さを誇りながら、
昨シーズンは14試合の出場にとどまった、甲府時代の愛弟子でもある稲垣祥を抜擢した。

 開幕以降も練習メニューに走り込みを入れるなど、リーグ戦と同時進行でスタミナ増強にも徹底して取り組んできた。
城福監督も「運動量が多ければいい、というわけではない」としながらも、たくましさを増してきた選手たちに手応えを感じている。

つづく

4/17(火) 5:00配信 THE PAGES
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