■ひと 元野球選手・ジンギスカン店店主 大谷翔平さん(32歳)

2025年、ワールドシリーズ初戦。
メッツの主砲・山田とレッドソックスのエース・藤浪という日本人対決を、
TVでじっと見つめる男がいた。自身も24歳でMLBに挑戦した、大谷翔平さんだ。

「凄いですね…」感嘆しながらも、どこか寂しげだ。
「今でも時々夢を見るんですよ。僕が二刀流であの舞台に立つ夢をね。
こんなことを言ったら笑われますけどね」

●花巻東高を経て日本ハムに入団。二刀流で日本球界を席巻すると、当然のようにMLBに活躍の
場を求めた。争奪戦の末エンゼルスに入団したが、投打とも全く通用せず、2年で解雇された。
その後は自らのルーツである韓国に渡り、LGツインズに入団。しかし故障がちになり、
目立った活躍はできず28歳で引退した。その後、韓国や日本各地での料理修行を経て、
今はジンギスカン店を営む傍ら、地元の少年野球団のコーチを勤めている。

●「へいらっしゃい!」。東武鉄道野田線鎌ヶ谷駅東口から歩いて30分。
「二刀流ジンギスカン 大谷」のえび茶色の暖簾をくぐって店内に入ると、白いタオルを頭に
巻いた大谷さんの陽気な掛け声に迎えられた。

「4月にオープンしました。暖簾の『大谷』という文字は栗山監督に左手で
書いていただきました。開店に合わせてスポーツ紙やテレビでも取り上げてもらった
おかげで、県外から足を運んでくださるお客さんが多かったのは嬉しかったですね」

●とはいえ、苦労も尽きないという。
「ジンギスカン好きは飛行機に乗って本場・札幌まで食べ歩きに出かける時代でしょ。
僕が修業した釜山の人気店『羊頭狗肉』(양두구육)のジンギスカンは勿論犬肉なので、
羊肉がジンギスカンだと信じ込んでる関東人に出すとモノ足りないようなんです。
それで怒られちゃったこともあるけど、それも修業のうち。我慢、我慢です」

●藤浪や則本について尋ねてみた。
「僕より下だったんですけどね」とおどけたが、すぐに真顔になって続けた。
「監督に気に入られることが才能だと思っていました。怪我さえ無ければって…歯がゆいですけど。
もう現役に未練はありません。今は世界一の選手を育てるのが夢です」

 その目はずっと遠くを見据えていた。

(写真)ジンギスカンを手に笑顔の大谷さん