2018.3.31 16:00 植草信和
岩下志麻が告白「自分の中の母性と女優の間でうつっぽくなった時期も…」〈週刊朝日〉

 女優生活60年の節目を迎えた岩下志麻さん。初めてカメラの前で演技したときから篠田正浩監督との結婚秘話や妻、母、女優としての葛藤。さらに同志的絆で結ばれた映画監督や共演者たちとのエピソードなどを語り尽くしてくれた。

 映画史研究家の春日太一氏がまとめた岩下さんのインタビュー集『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』が話題になっている。まず、その話から語っていただいた。

「女優歴60年だから何かしようという考えはまったくなかったのですが、たまたま春日太一さんからタイミングよくお話があって、古い記事を貼り付けたスクラップに目を通したり、DVDを見たりして思い出したことを話させていただき、一冊の本になりました。60年の歩みを記録として形にすることができてよかったと思っています。女優としての私は本当に幸運でした。映画全盛の時代に木下恵介監督や小津安二郎監督がいらした松竹に入って、興行成績が悪くてもどんどん作品を作っていただいて成長させてもらうことができたのですから。大手の映画会社があまり映画を作らなくなってからは篠田と独立プロを設立して、さまざまな役柄を演じることができたことも幸運でした」

 延べ22時間に及んだというインタビューで構成されている本書で語られる60年間の女優人生は、華麗だが真摯で一途。困難な状況に立たされても生来の向日性で克服してきたひとりの女性の、勇気ある言葉に充ちている。

 取り上げられている映画は「笛吹川」から「お墓がない!」までの41作。「好人好日」「古都」での清純な娘役から「心中天網島」「鑓の権三」にいたる円熟期、そして「鬼龍院花子の生涯」「極道の妻たち」のやくざの妻までの幅広い役柄を変幻自在こなしてきた演技力は、「神業に近い」と言っても過言ではない。

「他の人間になれることが、私の女優としての最大の喜びです。その作品で他の人間になれる、今までと違った人間になれるということで役をえらんできました」

 17歳のときに精神科医になりたいという志が、健康を害して頓挫。「気分転換のようなもの」という軽い気持ちでNHK「バス通り裏」に出演したことが女優人生の始まりだった。

 やがて松竹の巨匠監督木下恵介の目にとまり、「笛吹川」で映画デビュー。

 小津安二郎監督の「秋刀魚の味」に起用されて、松竹のみならず日本映画界の代表的清純派女優に成長する。初期の代表作のひとつ「五瓣の椿」では野村芳太郎監督の「岩下志麻を本格的な女優にする」という意図に応えて飛翔のときを迎える。

「それまでは与えられたセリフを憶えていただけでしたが、『いやこのセリフはこういうふうに言ったらどうなのかな』みたいな、別の考えが自分の中に浮かんで、それによって演技に対して今まで持っていた興味よりも幅が広がりました」

>>2以降につづく)


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