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2018/03/13(火) 22:05:33.23ID:CAP_USER9去る3月5日(現地時間3月4日)に発表された、第90回アカデミー賞の受賞結果。これまでStereo Sound ONLINEでは、授賞式のまとめと映画評論家・久保田明さん注目の受賞作品について、すでにお届けしている。
アカデミー賞関連企画を締めくくる第3弾として、久保田明さんを直撃。「『シェイプ・オブ・ウォーター』の作品賞/監督賞受賞に納得いかない!?」 「助演男優賞のダブル受賞希望!」 「今後公開を控えるこの作品は必見だ!」 など、興味深い話がいろいろ飛び出した。ぜひチェックしていただきたい。
テーマ1:作品賞/監督賞のモヤモヤと脚本賞のサプライズ!
――今回のアカデミー賞は、人間と半魚人の恋を描いた『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞、その監督のギレルモ・デル・トロが監督賞を受賞しました。何でも、久保田さんはこの結果にご不満だとか?
■久保田:人聞き悪いなあ。不満じゃないんだけど、昔からのファンとしてちょっとフクザツなんだよ。『ヘルボーイ』や『パシフィック・リム』だって『シェイプ・オブ・ウォーター』に負けない傑作だったでしょ。いや、ワクワク感、前のめり感は10倍上だよ。それを思うと今回、普通にいい映画として拍手されているのに違和感を覚えちゃうんだよなあ。
――確かに、デル・トロにしては普通ですね。でも、可愛らしさと彼らしい毒気が両立していて、これもアリだと思います。
■久保田:それはわかるんだけど。ラヴクラフト原作の幻想ホラー『狂気の山脈にて』が座礁したり、オカルト系のDCヒーロー集合映画『ジャスティス・リーグ:ダーク』から降板したり、ここ何年かデル・トロは幾度も壁に当たってきたから、今回の『シェイプ〜』はそんな自分を慰めるために作った小さな映画なのかもしれない。深夜、見る夢のようなね。
彼が監督賞と作品賞2本のオスカー像を掲げている姿には感激したけれど、いまだにデル・トロがこんなに素直な映画を撮っていいんだろうか、という思いは消えていないんだよ。今回の栄誉が大本命の『狂気の山脈にて』や、浮かんでは消えてる『ミクロの決死圏』リメイクの実現に結びつけばいいんだけど。
――今回は作品賞や監督賞、男優賞・女優賞から技術部門に至るまで、“これは意外”という結果がほぼありませんでしたよね。唯一その例外が、脚本賞受賞のB級ホラー『ゲット・アウト』じゃないでしょうか? ここは絶対に『スリー・ビルボード』だろう、と思っていたのですが……。
■久保田:うん、僕も脚本の出来映えは『スリー・ビルボード』のほうが上だと思う。思うけれども、わずか500万ドルで作られた低予算映画が興収1億7600万ドルという大ヒットを飛ばした話題性が受賞に結びついたんじゃないかな。
『ゲット・アウト』の面白いところは監督兼脚本のジョーダン・ピールが、黒人と白人のダブルっていうところなんだよね。ハーフ(半分)よりダブル(倍)のほうがカッコイイって、最近はダブルって呼ぶんだけど(笑)。お父さんがアフリカ系のアメリカ人、お母さんが白人という出自は、オバマ元大統領と同じ。
ピールはコメディアンで、ギリギリのところを狙った人種ネタのギャグをやったりしてる。友だちに白人も黒人もいるだろうから、双方の本音や建前が分かるんだよね。白人が観ても黒人が観ても笑える芸を身につけてきたキャリアが、この監督デビュー作にも生きてる。
『シェイプ・オブ・ウォーター』は半魚人と人間、『ゲット・アウト』は白人と黒人、『スリー・ビルボード』は治める者と異議を唱える者。今年のアカデミー賞に“溝”にまつわる作品が目立ったのは世相の反映だったのかもしれないなあ。