英パフォームグループのスポーツ動画配信サービス「DAZN(ダ・ゾーン)」は、巨額でJリーグの放映権を獲得し注目を浴びた。そのライバルであるソフトバンクの「スポナビライブ」は、サービスを終了するとともに、プロ野球などいくつかのコンテンツをDAZNに移行すると発表している。ソフトバンクとパフォームグループにはそれぞれどのような狙いがあるのだろうか。

スポナビライブの終了でDAZNに移行措置

 2016年に10年間のJリーグ放映権を約2100億円で獲得したことで話題となったパフォームグループのDAZN。Jリーグ以外にも国内外の様々な競技の放映権を獲得し、それらの試合を1つのパッケージとして月額1750円で配信することによって、国内でも注目を集めるようになったサービスだ。

 さらにパフォームグループはNTTドコモと提携し、NTTドコモのユーザーに対して「DAZN for docomo」の提供を開始。NTTドコモの回線契約者であれば月額980円で利用できるメリットを打ち出すことによって、契約の拡大を図ってきた。そうした成果もあってDAZNは2017年に100万契約を突破。事業を急拡大している様子が分かる。

 そのDAZNを巡って、ここ最近大きな動きがあった。ソフトバンクは2018年2月8日、DAZNのライバルに当たるスポーツ動画配信サービス「スポナビライブ」を終了すると発表したのだ。

 スポナビライブは2月13日に新規申し込みを終了し、5月31日をもって終了するとのこと。一方スポナビライブで配信しているコンテンツは、一部を除きDAZNで提供されるという。DAZNでは加入中のスポナビライブ会員向けに、月額980円で利用できる「スポナビライブ会員向け特別割引プラン」を提供し、移行促進を図るようだ。

 スポナビライブはプロ野球12球団のうち10球団の試合を配信(DAZNは2球団)するなど、日本で人気が高いプロ野球に強みを持つ。加えてソフトバンク自体がBリーグの最上位スポンサーとなっていることもあり、プロバスケットボールの試合配信にも力を入れるなど、コンテンツ面で見ればDAZNと比べても優位に立っている部分もあった。

 加えてDAZNがNTTドコモと組んで販売を拡大していたのと同様、ソフトバンクの携帯電話のユーザーに対して料金面で優遇を打ち出すなど、販売面でのメリットもあったはずだ。にもかかわらず、ソフトバンクがスポナビライブをたった2年という短期間のうちに終了させるという判断を下したのは気になる。

ソフトバンク上場がサービス終了の遠因か

 ソフトバンクがスポナビライブを終了させると決めたのは、同社が上場を目指したことに伴う戦略の転換が影響していると考えられそうだ。

 ソフトバンクグループとソフトバンクは、2018年2月7日にソフトバンクの上場準備を開始すると発表している。ソフトバンクは上場後、国内通信事業で獲得した顧客基盤を活用し、ソフトバンクグループが中心となって展開している投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の出資企業のサービスを国内展開することで成長するという構想を描いている。ソフトバンクグループが力を入れてきた「タイムマシン経営」の再現を国内の顧客基盤を生かして実現することが同社の戦略の柱となっているようだ。

 そのため現在ソフトバンクは、低価格の「ワイモバイル」ブランドの強化や、固定通信の「ソフトバンク光」などに力を入れることで顧客基盤の拡大を図っている。一方でARPU(通信事業者による1契約当たりの月間売上高)は減少傾向にあり、スポナビライブなどのコンテンツを含めた「サービスARPU」も伸びていない状況だ。

 ソフトバンクも当初は、自社コンテンツの利用を拡大することで売り上げを伸ばす戦略をとっていた。だがグループ会社のヤフーとの連携で大きな成果を出していること、そしてソフトバンク・ビジョン・ファンド出資企業の活用を積極化するようになったことから、コンテンツやサービスは外部調達に舵を切り、とりわけ負担が大きいスポナビライブは上場前に終了させるという判断を下したと言えそうだ。

 ちなみに同社の定額動画配信サービスとしては、アニメコンテンツに特化した「アニメ放題」も存在している。だがこちらはスポナビライブとは異なり、もともと自社ではなく外部企業のU-NEXTが運営している。このため負担も少ないと見られることから、少なくとも現在のところ事業は継続されるようだ。