<直撃!冬季五輪 その2>

 平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)で、フィギュアスケートやスピードスケートなど氷の競技が行われる江陵(カンヌン)は、ノルディックスキーなどが行われる平昌、アルペンスキーの滑降、スーパー大回転、複合が行われる旌善(チョンソン)、大回転、回転が行われる龍平(ヨンピョン)と比較しても街として開けているという。飲食店やコンビニなども、目につくところに幾つもある。

 開会式が終わった9日夜、平昌オリンピックスタジアムから最寄りの珍富(ジンブ)駅までのシャトルバスの運行が滞り、バス乗り場に大行列が出来た上、駅で電車が終わったと言われた観客が大混乱したというニュースが日本でも話題になったようだ。江陵では、競技会場が集まるオリンピックパークと駅との間を結ぶ無料のシャトルバスが比較的、多く運行されている。取材初日の10日も、日が改まる時間までオリンピックパーク周辺で取材していたが、江陵駅までバスに乗って戻ることが出来た。

 そんな江陵でも、駅周辺には深夜まで、五輪観戦に来たと思われる人の長蛇の列が出来ている。タクシーに乗れないのだ。駅に待機しているタクシーがいなくて行列を作っているのなら、まだ分かる。問題はタクシーが多数、駅の乗り場付近に待機しているにも関わらず、客が乗れずに長蛇の列が出来ている時が少なくないことだ。

 江陵に入った9日夕方、駅を出て宿泊先に向かおうとタクシー乗り場に向かったところ、何だか穏やかではない様子だった。客が20人以上並んでいたが、タクシーがつけるレーンにも客と同じくらいの数のタクシーが列をなし、滞留していた。5、6人の通訳ボランティアが対応に追われる中、客は「何が起こったんだ?」、「何、やってるんだよ!」などと口々に不満を言い出した。

 すると、今度は並んでいたタクシーから運転手が出てきて、手を振り上げながらハングルで何か叫びだした。中には通訳ボランティアに詰め寄り、ボランティが着ているエプロンのようなユニホームを引っ張って激怒する運転手もいた。ハングルの意味は分からないが、さしずめ「お前ら、何人もいるくせに、何でさばけねぇんだ!!」などと言っているであろうことは、想像に難くない。風が吹き、冷え込み始めた中、30分ほど待たされた。

 日本語が出来る通訳ボランティアの青年がいたので話を聞いてみると、「言葉の問題です」と申し訳なさそうに答えた。

 ボランティア 海外から来た観光客が多く、運転手と言葉が通じないんです。その上、お客さんも宿泊先など行き先の地図を持たず、インターネット上で予約し、プリントアウトした英語だけで書かれた紙を持ってくるので、運転手さんが読めず、その説明などで時間がかかってしまって。

 実際にタクシーに乗り、宿泊先までの地図が付いた予約証明書を運転手に見せたが、英語で書かれていたため読めなかった。下手な発音で宿泊先の名を読むと、運転手はハングルをカーナビに打ち込んだが、詳細までは分からなかったようで結局、宿泊先の電話番号に電話して、何とか宿泊先に行くことが出来た。

 タクシーの中で、ふと思った。「これは韓国、平昌五輪だから起こったことなのだろうか?」と。東京でも今、多くのタクシーがカーナビを搭載し、客が行き先や住所を告げると、カーナビに打ち込んで発進する運転手も少なくない。もし、客が外国人で言葉が通じなかったら、やはり発進まで四苦八苦するのではないだろうか? ましてや20年に東京で五輪が開催されれば、世界各国から老若男女が大挙するのだから…。

 韓国の地方都市・江陵とは比較にならないほど大都市の東京で、しかも猛烈な暑さが避けられない夏に行われる20年五輪で、タクシー乗り場で同じような混乱が起こったとしたら…。長時間、タクシー待ちをしていた海外からの観客が、熱中症などで倒れてしまう可能性も考えられる。東京はJRや私鉄、地下鉄をはじめ公共の交通網が発達しているが、駅までの行き方が分からない、ホテルなどに直接、行きたいと思う外国人はタクシーを使うだろう…そう考えた瞬間、ひとごととは思えなくなった。

 開会式後のバスと電車の混乱の件も、タクシー乗り場の混乱の件も、ただ批判するのではなく、20年に東京五輪を開催するホスト国の国民として、“他山の石”として、東京五輪に生かすという発想で見詰め、考えてみてもいいのではないだろうか?【村上幸将】

2/11(日) 11:04配信 日刊スポーツ
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