http://www.ashita-lab.jp/special/2978/
初の国産ボブスレーに詰まった、日本の意地 ──下町ボブスレーのこれから

細貝淳一さん(下町ボブスレーネットワークプロジェクト推進委員会・ゼネラ
ルマネージャー兼広報委員長)は「オリンピックで使われるアーチェリーを大
田区の町工場で共同製造できないか」と考えていた。

これから大田区の町工場の高度で精密なものづくり技術を活かせるのは、安全
安心を絶対条件とする航空機産業のはず。だが、航空機の新素材の炭素繊維を
手がけている大田区の町工場は少ない。ならば、炭素繊維強化樹脂(CFRP)と
金属の両方の素材が必要で、オリンピック選手に使ってもらえる“アーチェリー”
を、大田区の町工場の総力を結集して製造すれば、大田区のものづくりのすばら
しさを大いにアピールでき、新たな受注にもつながるのではないか。細貝さん
は、ことあるごとにそんなビジョンを周囲に語っていた。

だがアーチェリーは武器に相当し、製造認可にも多額の費用がかかるなど、な
かなか町工場の手に負える代物ではない。足踏みしていたところに舞いこんで
きたのが、大田区産業振興協会の小杉聡史さんが持って来た「大田区の町工場
でボブスレーをつくりませんか?」という提案だった。

ボブスレーは超高精度の技術が要求される一点もの。大田区の町工場の得意技
を十二分に活かせる。海外ではフェラーリやBMWといった大企業がつくるボブ
スレーに、日本の町工場連合が初の国産品として挑み、オリンピックで日本
チームに使ってもらう。話題性は十分あり、大きな注目を集めるだろう。

小杉さんの提案を聞いて、細貝さんはまず「いくらかかるのか」考えた。
「アーチェリーなら400〜500万円、ボブスレーはざっと計算しても2000〜
3000万円。スポンサー寄付が思うように集まらず、最悪うまくいかなくても、
自分でリスクを取れるぎりぎりの範囲と判断しました。30分ほど考え、大田区
の町工場の発展と未来の希望が一気通貫できるプロスセスが見えてきたので、
やろうと決意したわけです」

焦った細貝さんは、腹をくくるため、お尻に火をつけた。
「とりあえず記者会見をして世間に発表してしまおう」と提案したのだ。

2012年5月23日の記者会見には7社以上が集まり、テレビ中継も入った。
予想外の注目度にプロジェクトメンバーの意気は上がる。

下町ボブスレーの協力企業・団体は109に及び、メインスポンサーのひかりTV、
サブスポンサーの全日本空輸株式会社をはじめ、18社のサポーター、6社のサブ
サポーター、1社の素材スポンサーに支えられている。

平昌冬期五輪に向けて、年々メディアへの露出も多くなるだろう。町工場が
ネットワークを組んだ共創プロジェクトは、大田区という一地域を超えて、
オールジャパン体制での共創気運を盛り上げている。細貝さんが言うように
「志で動いている」ところが多くの人の心の琴線に触れるに違いない。