https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201307010002-spnavi
町工場からソチ五輪につなぐ夢 下町ボブスレーの知られざる挑戦
「氷上のF1」に東京の町工場が殴りこみ

もともとはシンプルなソリ競技からスタートしたボブスレーだが、近年では各国
とも研究技術に力を入れており、イタリアチームのフェラーリ、ドイツチーム
のBMW、さらにはイギリスチームのマクラーレンなど、世界の一流自動車
メーカーや、さらには航空宇宙関連企業・機関などがしのぎを削る、まさに
「氷上のF1」とでも呼ぶべき状況になっている。

 そんな生き馬の目を抜くボブスレーの世界に、日本から殴りこみをかける
のが「大田ブランド」という東京・大田区にある町工場。

「たとえば東大阪の『まいど1号』(人工衛星)とか、墨田区の『江戸っ子1号』
(深海探査機)とか、それぞれの町工場が技術力をアピールするものを作ってい
るわけですが、大田区の場合はスポーツの分野でいこうと。世界中の注目を浴び
る大会といえば、五輪。ただし、夏季よりも冬季のほうが用具を使う競技
が多いし、大手(メーカー)も入っていないので、ウチらでもできそうだ
と。そこでソリ競技のボブスレーが一番いいのではないかと思ったわけです」

 てっきり私は、JBLSF(日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟)
が町工場にオーダーしたのかと思ったのだが、どうやら逆だったようだ。

五輪競技用のボブスレーをイチから作る。しかも、競技に関する知識もなければ、
いざ作ろうにも図面さえない。はっきり言って、相当に無謀なチャレンジに思える。

10日間ですべての部品が完成、一発で組み上がる

それにしても、何というスピード感であろうか。しかも驚くべきことに、
第1号機の説明会の際、協力企業32社に「すべての部品を10日で作ってく
ださい」とお願いしたそうだ。とにかく11月1日のJIMTOFの展示に間
に合わせなければならない。そのために200点ある部品を「ウチならこれが
できる」「じゃあ、ウチはこっちで」という感じで32社に振り分け、10日
後に「せーの!」と一発で組み上がったというのである。

 もちろん、どの工場もボブスレーのパーツを作るのは初めての試みだ。それ
でも「短期間で精度のある製品を作るのが、大田区の強みですから」と小杉さ
んが言えば、「別々に作っていても、それまでの経験と付き合いがあるから、
100分の1単位で大きくしたり小さくしたりすることで、ピタリと部品がは
まるんですよね。それこそが職人技なのだと思います」と舟久保さんも実感を
込めて語る。

 かくして、第1号機は一定以上の成果を収めることができた。だが、大田ブラ
ンドの目標はここではない。目標はあくまでもソチ五輪、そしてボブスレー競技
でのメダル獲得である。すでに大田ブランドでは、第1号機のデータを解析し
て第2号機の製作を開始。今年9月の完成を目指すという。小杉さんによれば、
第1号機の設計図を古いソリから起こしたのは、結果として正解だったそうだ。

「あの1号機は、20年前くらいのソリを参考にしていたので、ベーシックな造
りなんですよ。『それが良かった』と国際連盟の会長もおっしゃっていました。
他国の有名車メーカーでさえ、最新の技術を盛り込みすぎたせいか、速いソリと
ならなかったそうです。いずれにせよ、わたしたちの強みは、一度作ればある程
度の構造は分かるので、そこからどう改良を加えていくかですね」