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相撲ファンは深く傷ついた…

なぜこれほど見える光景が違うのだろう、と思う。
日馬富士の殴打事件に端を発する大相撲をめぐる騒動について、日常的に
相撲を見ている熱心なファンと、そうではない人々との間に、超えがたいほど
深い認識の溝をひたすら感じさせられた2ヵ月だった。
日馬富士が事件を起こしたこと以上に、周囲が相撲を見る目が現実と微妙に
異なっていることに、私を含むファンは深く傷ついた。

相撲ファンは相撲界の慣習に寛大だ、などと言いたいのではない。
私が多様な相撲ファンを代表できるわけではないが、少なくとも私の友人知人や
私に声を寄せてくださった相撲ファンの人たちは、暴力事件が起きたことに、
誰よりも心を痛めている。

相撲ファンではない人には、「また黒い世界で暴力が起こって、腐敗した協会が
隠蔽しようとしている」という

他人事の架空のストーリーを苦もなく受け入れらるだろうが、

相撲ファンからしたら、自分の居場所でリアルな暴力が起こったのだ。
そのショックは我が事であり、深刻である。

 相撲ファンがつらくなったのは、日馬富士が力士の中でも人権意識が高く、
障害者を支援する施設を運営したり、医療支援活動に積極的だったり、
日本の大学院で法律を学んだり、子どもや高齢者に優しいことを、
よく知っているからだ。
 そんな力士でさえ、後輩の指導のためについ暴力を振るってしまうほど、
相撲にまだ暴力の文化が根強く残っていることが、残念であり悔しいのだ。
 そして事件を防げないという形で関わったとはいえ、白鵬がその後、相撲界の
ネガティブな要素の代表のように報じられ、
ヘイトスピーチまがいの言葉で罵られることに私たちは怒り、悲しみ、
やるせない思いになった。

 それは、白鵬が2007年から11年に渡る大相撲危機の時代を支えたという
だけでなく、解雇された力士をケアしたり、冤罪で解雇されて裁判で復帰を
勝ち取った蒼国来にまず稽古をつけたり、子どものための白鵬杯を毎年
開いて相撲文化の裾野を広げたり、力士会の会長として労働環境の改善に
尽力したりと、広い目配りと気遣いで、力士やファンを大切にしてきたことを
知っているからだ。

だが、普段、相撲に接していない人たちには、そのような行いや人柄は
顧みられない。


メディアの作り上げる、傲慢な者同士のいがみ合いという、事実と離れた物語

を鵜呑みにするばかりだ。