平成元年に単行本が刊行され、文庫になったのが7年。30年近く前に出たロングセラーが脚光を浴びている。
昨年11月に放送されたテレビ番組内で、お笑いコンビ・メイプル超合金のカズレーザーさんが紹介すると売れ行きがはね上がり、一時はAmazonの売れ筋ランキングで総合1位に。
以降の2カ月だけで6刷10万5000部を増刷した。

 奇想で読者を驚かせてきた作家らしい実験的小説だ。第1章は〈世界から「あ」を引けば〉で、以後、章ごとに使える「音」が消えていく仕掛け。
「あ」が消えると、妻はいつものように主人公に「あなた」と呼びかけられない。
「ふ」がなくなると、ステーキを切るあの道具が使えないので、欧州料理店でも出されるのは箸。
消えた音を名に持つ愛する娘もいなくなる…。完全な虚構なのに、失われた言葉や物、人の残像(イメージ)がまぶたに浮かび、悲しみや虚無感にもとらわれる。

 「少ない文字しか使えなくなっても、しっかりストーリーを紡げていることに驚く」(中公文庫編集部)。
言語遊戯に安住せず、物語自体の魅力も追求する作家の姿勢が、苦くてほの温かい不思議な読後感を生む。

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産経ニュース 2018.1.13 09:20
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