それに、これまでも日本代表やW杯出場は自分の一番の目標ではなかったから。もちろん、出場チャンスがあるなら出たいし、出ることによって得られることもあるとは思います。さっきも話したように、日本代表に選ばれたからこそ気づけたこともたくさんありますしね。

 でも、海外に飛び出せば、もしかしたら日本代表戦のような”痺れる”戦いや”バチバチした感覚”を、所属チームで毎日のように味わえるかもしれない。そのほうが楽しいだろうなって思ったし、単純に年齢的にも……仮にロシアW杯に出場できなくても、4年後はまだ26歳になる年ですから。自分次第ではチャンスがあるはずだし、この4年間を海外で過ごすことで、もっと楽しくW杯を戦えるかもしれない。それならば、今しかチャレンジできないことを優先したかった」

 もっとも”海外”がひと筋縄ではいかない”場所”という自覚はある。リーズへの完全移籍とはいえ、半年間はスペイン2部リーグのクルトゥラル・レオネサへの期限付き移籍となるが、たとえ2部リーグであっても、そのレベル、選手の質を考えれば「簡単に試合に出られるとは思っていない」と井手口は言う。

「新井場さんにも言われたんです。『2部とはいえ、個々のレベルは想像以上に高いし、陽介がすぐにチームの中心になれるほど甘くはない。むしろ、厳しい』って。でも、僕としてはそこがウエルカムだなと。

 ガンバでもトップに上がって、ヤットさん(遠藤保仁)やコンさん(今野泰幸)、ミョウさん(明神智和/長野パルセイロ)に揉(も)まれて、なんとか乗り越えようと必死に戦ってきたように、厳しい状況を乗り越えてこそ、見えてくるものも絶対にある。この先、長く海外でプレーするためにも、まずは半年。スペインでしっかり自分と向き合いたい」

 加えて言うならば、移籍会見の席上で”言葉の壁”について尋ねられ、「言い方は悪いですが……ノリで(笑)」とは言ったものの、もともとの性格がすぐに環境に適応できるほど、オープンマインドではないことも自覚している。だが、それでもなお、井手口は海外でしか望めない成長に思いを馳せる。

「今のところスペイン語で覚えているのは、『hola(オラ/「やぁ!」という意味)』と『Gracias(グラシアス/「ありがとう」という意味)』のふたつだけなので、間違いなくコミュニケーションは苦労すると思います(笑)。ノリで乗り切れるくらいにならなきゃ、とは思っていますけど、本来の性格はそういうタイプでもない(笑)。

 でも、そうやって自分が心を開いて、環境に溶け込む努力をしたりして、メンタル的にも動じない自分になる必要も感じているし、慣れない環境に適応していく苦労? みたいなものも楽しめるようになりたいな、と。

 これはプレーも同じで、最初は周りも『どんなもんやねん』って感じで見てくると思うし、プロになりたての頃のように、周りの先輩選手が助けてくれるなんてこともまずないと思う。けど、そこは日々の練習から積み重ねて、試合で自分を示すということを繰り返す中で信頼をつかむしかない。

 そういうことを考えると……不安もゼロではないけど、ワクワクした気持ちのほうが大きいし、自分の決断に家族を巻き込んでいる責任もある。それをしっかり自分の肝に銘じて勝負したいと思います」

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つづく