12/4(月) 11:10

大谷翔平が正式にポスティングに掛けられ、争奪戦がスタートした。米メディアの大谷狂想曲ぶりはチト異常なくらいで、連日彼の動向に関する記事がウェブ上に氾濫している。ここまで盛り上がっている要因としては、時速100マイルを越す豪速球を投げ東京ドームの屋根にブチ当てる打球を放てる卓越した才能、あと2年待てばそれこそ2億ドル級の契約が手にできる可能性が高いのに、それを棒に振ってまで少しでも早くアメリカへという「カネより夢」のストーリー性、NPBナンバーワンのプレーヤーでありながら寮に住み月10万円程度で暮らしているというミステリアスな部分、これらも挙げることができる。

しかし、突き詰めればやはり「二刀流」に尽きるだろう。「日本のベーブ・ルース」、このショッキングなまでの形容が拍車を掛けている。現在の米球界とメディアの大谷フィーバーは、ぼくに11年前の松坂大輔渡米時の熱狂を思い起こさせる(あの時は、松坂の資質やNPBでの実績のみならず、ジャイロボールなどという日本時代にはほとんど話題になっていなかった魔球の操り手として神秘性が増大した)。

大谷自身も契約先選択の要素に「二刀流起用の可否」を挙げている。先日は代理人が宿題を全球団に送付したために、ほとんどの球団が模範解答作りにやっきになったようだ。実は、設問自体には二刀流起用の意思をダイレクトに問うものはない。単に投手として、打者として両方の評価を求めているだけだ。しかし、大谷に選ばれるためには、二刀流を否定するような文言は避けねばならない。そう、大谷に関しては労使協定上の制約でマイナー契約しか結べず契約総額にもキャップが被せられている。そのため、完全に「契約条件<選手のバリュー」で資金力のない球団にもある程度門戸が開かれているため、競争は激しいのだ。

しかし、本当に大谷を二刀流選手として期待している球団がどれだけあるのだろうか?正直なところ、ぼくには疑問だ。投手大谷は、その若さと完成度のバランス、さらにはタダ同然のプライスでどの球団も喉から手が出るほど欲していると思う。しかし、打者大谷に関しては、本人が二刀流を球団チョイスの条件に挙げているため、「なんとか起用案をひねり出さなきゃ」ではないのか。分業化が徹底されているMLBでは、故障の懸念も含めほとんどの球団にとって、NPBでの大谷の強打者ぶりは単に彼のアスリートとしての潜在能力の高さを推し量る傍証でしかないのではないかとの思いは拭い去れない。

と、思っていたらESPNのアナリストのキース・ロウが大谷の打者としての能力に疑問を呈する記事を掲載した(投手としての大谷への評価も、決して手放しで褒めちぎるものではなかったが)。日本のメディアは、自分たちの意見を述べず「アメリカはこう言っている」と、現地の報道をそのまま掲載するのが大好きだ。「現地の見方」は自分たちの見識も同時に述べられていて始めて意味をなすと思うのだが、まあそれは別の話題だ。早速、某媒体がその翻訳記事を掲載したので、お読みになった方も多いと思う。

その媒体とは異なり私見を述べる。投手大谷は限りなく完成品に近く、それこそ来季は開幕から2014年前半の田中将大のようなセンセーションを巻き起こすほどの活躍を見せてもぼくは驚かない。また、その可能性ありと見ているMLB関係者も少なくないと思う。

一方、打者としては現時点では「素材」に過ぎず、メジャーで一流になるにはまだまだ研鑽を積む必要があると思う。日本でのここ2年間の成績は確かに素晴らしいが、それは投手として驚くべきものであり、即メジャーでレギュラーとして活躍できることを保証するレベルではないと思う。左方向に長打が出るのは彼の美点だが、右方向にしっかり引っ張った本塁打が少ないのは気にかかる。90マイル台後半のムーブする豪速球で内角を攻められて、対応できるだろうか?将来的にはそれは可能かもしれない。しかし、それには年月がかかりそうだ。打者としては、まだキャリアが浅すぎる。

メジャーには、マディソン・バンガーナー(ジャイアンツ)のような打者顔負けの強打者のエース級投手がいるが、かといって彼を登板日以外は打者としてスタメン起用せよ、と言う声は挙がらない。それは、バンガーバーが打者として通用するほどではない、ということではなく、投手としての登板日以外のトレーニングの在り方が、野手のそれとは根本的に異なり、その両方をやらせろというのはあまりに非現実的だと彼らは考えているからだ。そして、投手に野手として出場させることは、故障のリスクも高めることを意味している(実際、大谷も打者としての走塁中に故障を負い、2017年シーズンの多くを棒に振った)。


https://news.yahoo.co.jp/byline/toyorashotaro/20171204-00078873/